最終年度となる4年目はこれまでの野外モニタリングで取得したサンプルの定量的環境DNAメタバーコーディングを実施し、得られた配列データの解析、解釈を行った。
まず昨年度不具合のあった定量環境DNAメタバーコーディングの実験系の改善を行った。定量用の標準DNAを新規に発注し、使用する標準DNAの数を従来の5種類から3種類に減らし、サンプル内にもともと含まれるDNAから得られる配列数の割合を増やす方策を取った。その後再度ITS領域のシーケンスを行った結果、シーケンス後に各サンプルから得られた標準DNAの濃度と配列数はきれいな線形関係を示し、野外実験の前後で取得したサンプルの定量的環境DNAメタバーコーディングデータを取得することに成功した。得られたデータを解析した結果、ツボカビ添加3時間後と1日後において、ツボカビDNA濃度の顕著な上昇がみられ、野外操作実験により系内のツボカビ密度の上昇を引き起こすことに成功したことが判明した。また、直接操作を施していないツボカビ以外の生物についても変化がみられた。例えば、Naemateliaceae科の菌類はツボカビ添加区では添加後13日を経ても相対優占度が非添加区に比べて低いままであった。また、Sporidiobolaceae科の菌類は添加直後に顕著な相対優占度の低下が見られた。これらは、ツボカビの系への導入が生物間相互作用を介して群集構造を変化させた可能性を示唆する。
研究発表成果としては、定量的な環境DNAメタバーコーディングを用いて水域サンプルの解析を行った研究成果2本がeLife誌から出版され、新規なニューラルネットワークを用いた近未来予測手法に関する論文がRoyal Society Open Science誌から発表された。また、2023年5月の国際eDNA学会と2024年3月の日本生態学会で関連成果の発表を行った。
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