研究課題/領域番号 |
20H03324
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
酒井 章子 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (30361306)
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研究分担者 |
乾 陽子 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (10343261)
辻 かおる 京都大学, 理学研究科, 研究員 (40645280) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 共生関係 |
研究実績の概要 |
アカメガシワは、雄と雌が別個体となっている雌雄異株の植物である。雄花と雌花は、形態のほか開花様式も大きく異なっている。雄花は花粉を生産するほか、蜜を分泌し多くの昆虫に訪花され1,2日で寿命を終えるのに対し、雌花は花粉も蜜も生産せずしたがって昆虫にもほとんど訪花されることがなく、10日あるいはそれ以上開花し続ける。雄花は開花が終わるとすぐ散ってしまうが、雌花は結実まで数ヶ月間保持される。花上の細菌叢についても、雄花では多様なガンマプロテオバクテリアが優占するが、雌花ではアルファプロテオバクテリアのスフィンゴモナス属が優占する。 雌花でのスフィンゴモナス属の優占は、結実まで数カ月間保持されなければならない花を病原性細菌から守るためではないかと考え、病原細菌Erwinia mallotivoraの接種実験を行った。調査地において、Erwinia mallotivoraを分離し、雄花序、雌花序に接種実験を行った。これにより、葉から感染することが確認されていた本病原体は、花からも感染しうること、雄と雌でその感染のスピードが異なることが示された。また、自然に罹患した個体の花には、目に見える病徴はないものの、分離培養によって増殖能力のあるErwinia mallotivoraがいることが示された。これらの結果は、花から花へ移動する訪花者や花粉がErwinia mallotivoraを媒介しうること、高密度になった場合には雌の方が大きな影響を受けることを示唆し、雌の方がより強い防衛を必要としているというアイデアを支持している。 これらの結果は、相利共生的な視点から解釈されることの多い雄花と雌花、あるいは植物と花粉を運ぶ送粉者の関係について、微生物を伝播することで負の影響をもたらし対立する関係ともなりうることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ感染拡大のため、予定していた地点での調査の一部は行えなかったが、これまで採集・保管されたサンプルを分析をすすめることができたほか、病原性細菌の接種実験によって期待された結果を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によって、アカメガシワの花上の細菌は、雄と雌で大きく異なること、雌花で細菌叢の多様性が低いことが明らかとなった。それを説明する仮説の一つとして、花上の細菌が植物の繁殖成功を左右していることが考えられる。たとえば、細菌は結実率のほか、種子の微生物叢を左右するため、雌植物がなんらかの選択をしているのかもしれない。そこで、今後花上の微生物叢を人工的に操作して、その結果結実率や、その後結実した種子内の細菌叢が変化するのかを検討する。 花微生物叢の操作実験には、これまで分離しストックしている系統の中から、雌雄の花でともに見られたPantoea属、雌花で多くみられたSphingomonas属のうち、これまでに花と種子双方から分離されている系統を選んで用いる。これらの系統を培養し、蒸留水に懸濁して開花期に雌花に噴霧する。コントロールとして、蒸留水を噴霧した同じ木の雌花、また接種実験に用いていない別の木の雌花を用いる。 果実の成熟後、実験対象木から種子を採集し、微生物DNAを抽出してアンプリコンシーケンシングを行う。得られたサンプルから、接種した細菌と同じ配列が見られるか、その割合はどうか、またアルファ多様性やベータ多様性に変化があるかを検討する。また、違いが見られれば、それらの違いが生存や発芽率に差をもたらすのかを検討するため、アカメガシワの近くの土壌中に埋め半年ー1年経過のちに回収し、発芽率を評価する。 3月には、それらの成果を生態学会で発表する。
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