本年度は都市人工環境下で暮らす人が自然由来材料に対してどのような心理的、生理的反応を示すかについて調査することを目的とした。具体的には身近な自然由来材料として人が木材のどのような点に「木らしさ」を見出し、好ましいと感じるのかを触覚と視覚の複数の要素に分けて明らかにすることを試みた。接触感覚要素として温冷感、硬軟感、粗滑感、乾湿感、視覚要素として木目のコントラスト、色について、それぞれ指標とする物性値が3~5段階に異なる試験体群を用意し、各段階における「木らしさ」と好ましさを「手触りのみ」「見た目のみ」「見た目+手触り」の各条件で調べた。20代の被験者17人(男性8人、女性9人)を対象に実験を行った。試験体は繊維方向が視線と直交する方向で置かれた。被験者は個人属性に関する項目へ回答し、印象評価ではSD法7段階で各種印象を評価した。また、粗滑感を変化させた試験体群においては刺激提示(接触時、観察時)中に生理応答として心拍間隔の計測を行った。 温冷感群の「手触りのみ」条件では木らしさ、心地良さ、重厚感、粗滑感、温冷感、硬軟感の評価に有意差が認められ、温冷感と粗滑感は0.1%の水準で統計的に有意であった。スギは温冷感群において最も熱伝導率が小さく、印象評価でもあたたかいと評価された。スギはヒノキとナラに対して有意に粗いと評価された。また、スギはナラに対して有意に木らしいという結果が得られた。以上より、熱伝導率が低く表面が粗いほど木らしいと評価される可能性があると考えられる。また、手触り+見た目の条件では温冷感は手触りの影響が強く、木らしさは見た目の影響が強いと考えられた。心拍においては試験体の違いによる変化は触覚、視覚ともに認められなかった。
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