研究実績の概要 |
記憶は、秒から分単位の経過とともに忘れる「短期記憶」と、何時間、何日、あるいは一生続くような「長期記憶」に大別される。短期記憶では、細胞内で既に発現しているタンパク質の移動や修飾が重要な役割を果たし、タンパク質の新規合成は不要であることがこれまでの研究からわかっている。一方、タンパク質の合成を阻害する薬理実験から、長期記憶ではタンパク質の新規合成が必須であることが古くから知られている。しかしながら、脳内で新規に合成されたタンパク質がいつ、どこで、どのように働いて長期記憶を実現しているのかはほとんどわかっていない。本研究では、脳で新規に合成されたタンパク質がいつ、どこで、どのように働いて長期記憶を実現しているのかを明らかにし、長期記憶の分子メカニズムを解明することを目指している。2020年度はまず、様々な新規合成タンパク質を観察し、操作するためのプラットフォームの構築を開始した。申請者が開発した生体脳内ゲノム編集技術と内在性タンパク質のハイスループットな標識・イメージング技術SLENDRおよびvSLENDR (Mikuni et al., Cell 2016; Nishiyama*, Mikuni* et al., Neuron 2017) と化学的標識技術を組み合わせることで、特定の時間枠に新規に生合成された内在性タンパク質を可視化するための方法を開発した。さらに、記憶に重要とされるシナプス伝達や細胞内シグナル伝達に関わる10種類程度のタンパク質について、SLENDR/vSLENDRを行うためのゲノム編集バッテリーを作製した。
|