ヒトの大脳はマウスの大脳に比べてサイズが大きく、またその表面にシワ(脳回)が存在するなど著しく発達している。脳回は大脳の高機能化の基盤となる重要な構造であるが、マウスでの解析が不可能であるためにその形成機構および異常疾患病態は不明な点が多い。そこで本研究では、脳回を持つ食肉類哺乳動物フェレットを用いることにより、脳回形成の分子機構を解明することを目的とした。特に我々が確立したフェレット脳への子宮内電気穿孔法とCRIPSR/Cas9を応用した遺伝子操作技術を駆使することが特徴的である。フェレットの形成期大脳皮質でのGli1 mRNA発現をin situ hybridizationを用いて検討した結果、oRGのなかにGli1陽性とGli1陰性の2群の細胞が存在することを見いだした。続いて、活性化型Shh (Shh-N)を胎生33日齢のフェレット大脳皮質へ導入しShhシグナルを活性化させたところGli1陽性oRGが増加し、逆にShhシグナルを阻害するHhipΔC22を導入したところGli1陽性oRGが減少したことから、ShhシグナルはGli1陽性oRGの増加に必要かつ十分であることがわかった。さらに活性化型Shhをフェレット大脳皮質に導入しGli1陽性oRGを増やしたところ脳回も増加し、またHhipΔC22を導入しGli1陽性oRGを減少させたところ脳回形成も抑制された。またフェレットとマウスを比較したところ、フェレット大脳皮質でShhシグナルが強く活性化していた。これらの結果は、進化の過程でのShh活性の増加がGli1陽性oRGを増加させ、その結果として脳回が増加したことを示唆している。これらの成果は、滑脳症や多小脳回症などの脳回に関する疾患の病態解明にも発展するのみならず、脳回以外の高等哺乳動物に特有の多様な脳神経構築の形成機構解明への突破口となるなど波及効果も大きい。
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