研究課題
2本鎖RNA中のアデノシンをイノシンへと置換するRNA編集は、哺乳類において最も豊富に生じている化学修飾である。特に脳において高頻度に生じているが、RNA編集が脳の形成や機能の維持に果たす役割については、まだ部分的にしか解明されていない。触媒酵素の1つであるADAR1には、細胞質に局在するp150と核に局在するp110の2種類のアイソフォームがある。p150については、RNA編集により2本鎖RNA構造を緩めることで自己免疫が惹起されないように抑制する機能があることが分かりつつある。しかし、特徴的に脳に高発現しているp110については全く役割不明である。そこで本研究では、p110アイソフォーム特異的なノックアウトマウスや神経細胞特異的なADAR1ノックアウトマウスを作成してその表現型を解析することから、脳の発生・分化や機能にRNA編集が果たす役割を解明することを目的として研究を開始した。当該年度は、ADAR1 p110選択的KOマウスを作成し、形態学・病理学的に解析を行った。脳を含めて、明らかな病理学的異常は検出できなかったが、単一神経細胞RNA-seq解析を行った結果、脳室周囲の放射状グリア細胞の数が減少している可能性が示唆された。また、神経細胞特異的なADAR1 KOマウスを作成したところ、ADAR1 p110選択的KOマウスと同じように生後直後死に至る表現系を呈することが明らかとなったことから、神経細胞に発現するADAR1 p110が生存に必須の役割を果たしていることが明らかとなった。引きつづき、脳におけるADAR1 p110の役割を解明していく。
2: おおむね順調に進展している
予想外に、ADAR1 p110 KOマウス脳に明らかな形態学的異常を検出しなかったが、単一神経細胞RNA-seq解析を行ったことで、脳室周囲の放射状グリア細胞の数が減少している可能性など重要な手がかりを掴みつつある。このため、おおむね順調に進展していると判断した。
今後も引き続き、ADAR1に対する免疫染色やin situハイブリダイゼーション、神経前駆細胞マーカータンパク質への免疫染色などを実施して、神経前駆細胞の発生・分化への影響を解析する。また、活性型カスパーゼに対する免疫染色でアポトーシスの有無を観察する。更に、野生型、p110選択的KO、ADAR2 KOマウスそれぞれの出生前後期の脳からRNAを抽出し、次世代シーケンサーで網羅的なRNA-seqを行い、この解析を通して、p110選択的な標的の絞り込みを進めている。今後はこれを継続して、p110選択的な標的の特徴を明らかにし、脳の発達過程におけるADAR1 p110とADAR2の標的の差異を解明する。また、神経細胞特異的なADAR1 KOマウスの脳の形態を解析したり、インターフェロン誘導遺伝子の発現量をRT-PCR定量解析などを実施し、脳におけるADAR1 p110の役割を解明していく。
すべて 2021 2020 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
PLoS Genetics
巻: in press ページ: in press
炎症と免疫
巻: 28(6) ページ: 546-550
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/rna/publications.html