研究課題/領域番号 |
20H03343
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
石田 綾 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, チームリーダー (40424171)
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研究分担者 |
石川 理子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (60547991)
坂内 博子 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40332340)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シナプス / 神経活動 / 可塑性 / Cblnファミリー |
研究実績の概要 |
神経細胞間のつなぎ目であるシナプスは、外界の変化に応じてダイナミックにその機能と形態を変化させ、個体の行動を制御する。シナプスが入力に依存して変化するために必要なメカニズムを明らかにすることは、健常者の適応行動の解明と様々な精神神経疾患の理解につながる。申請者はこれまでに、Cbln1が小脳において神経活動に応じて分泌され、軸索の形態変化を介してマウスの運動機能を劇的に変化させることを示してきた。Cblnファミリー 分子は小脳以外にも様々な脳領域に広く発現していることから、環境変化に応じて回路が変容するために働く普遍的かつ強力なメディエーターとして機能する可能性がある。本研究ではこの仮説を検証するために、侵害刺激の受容中枢でありCbln1とCbln2が強く発現する結合腕傍核(Parabrachial Nucleus; PBN)に着目すし、痛み刺激に応じて回路がダイナミックに変化する過程を明らかにし、この過程でCblnファミリー分子の果たす役割を解明することを目的とした。これまでに、PBNに発現するCbln1/2のシナプス局在を明らかにするため、HAタグノックインマウスの作成を行い、PBN内部での発現細胞の詳細な解析を行うことが可能となった。このマウスを用いて、投射先である扁桃体内側核の興奮性シナプスにおいて、GluD1とCbln1/2が明確に共局在することが確認された。さらに、GluD1, Cbln1/2のノックアウトマウスを用い、シナプスの形態学的解析と電気生理学的解析を進めており、各分子がPBN-扁桃体中心核間のシナプスの機能制御に必須の役割を持つことを見出している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画の提案に沿い、HA-Cbln1/2マウスの作成に成功し、各分子をS/N比高く検出することが可能となった。これまでは、Cbln1の現存抗体では小脳外でのシグナルが弱く観察が困難であった。Cbln2については内在性分子を検出する抗体が存在せず、免疫染色法で確実なシグナルを検出できなかった。今回作成したHAタグノックインマウスを用いることで、扁桃体中心核だけでなく他の脳領域でも両分子の観察が可能となった。ノックインマウスの作成に用いた手法を応用することで、Cblnファミリー分子だけでなく他のシナプス分子についても高解像度で可視化することが可能となった。また、Cbln1/2各ノックアウトマウスのシナプス形態の解析からは、明確な表現型が見出され、生理的意義も示されていることから、今後は論文化に向けたデータ取得を進めている。以上のことから、現在までの進捗状況は、当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、PBNと扁桃体中心核間のシナプスにおいて、Cbln1/2とGluD1がその生理的機能の制御に必須の役割を持つことを示してきた。今後は、侵害刺激に応答し神経回路が変化するプロセスにおいて、Cblnファミリーの果たす役割を明らかにする。環境入力を受けて神経回路がどのように変化するのか、という根本的な命題に対して重要な知見が得られるものと考えられる。
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