研究課題/領域番号 |
20H03344
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
飯島 崇利 東海大学, 医学部, 准教授 (90383702)
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研究分担者 |
甲斐田 大輔 富山大学, 学術研究部医学系, 准教授 (60415122)
三上 克央 東海大学, 医学部, 准教授 (90548504)
田中 正視 東海大学, 医学部, 客員講師 (50706182)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スプライシング / RNA結合タンパク質 / 3'UTR / シナプス |
研究実績の概要 |
RNAスプライシングはは僅か2-3万遺伝子程度のゲノム情報から、複雑な脳機能の創出に必要な生命情報獲得を補償する重要なステップである。しかしながら、進化的に複雑となった高等動物のRNAスプライシング過程では様々なエラーが起こりうるのに対し、膨大なトランスクリプトーム品質がどのようにエラーから保護されているのか、トランスクリプトーム品質管理の仕組みについては理解されていない。重要なことに、最近我々は神経系においてスプライシングエラーを未然防止する興味深いファクターとして神経系RNA結合タンパク質SAM68を同定し、SAM68欠損によるシナプス接着因子IL1PAPのスプライシングエラーはmRNAを短縮化させ、IL1RAP依存的なシナプス形成と可塑性の異常を引き起こすことを明らかにした (Iijima et al., 2019)。これらの結果をもとに本課題では、脳機能を守るRNA制御として、神経系トランスクリプトームの品質管理メカニズムの解明を目指してきた。 これまでの研究成果として、我々はSAM68がU1 snRNPとの協調作用を介してスプライシングエラーを防いでいること、また一部のmRNA基質では、エラー防止が神経活動によっても制御されていることを明らかにし、神経活動に依存的な基質としてProtocadherin-15 (Pcdh15)を同定した。Sam68欠損マウス脳ではイントロン27の5末端部位が誤って挿入されRNAプロセシングの途中終結が起こり、本来膜型として発現するタンパク質がatypicalな分泌型に変換されてしまう。ゲノム編集によるPcdh15ノックアウトおよび分泌型Pcdh15を発現させた培養前脳神経細胞の中で生化学的、細胞生物学的に異常所見を比較したところ、後者で興味深いタイプの特定シナプス形成不全が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の開始年度に新型コロナにより、他施設での動物行動実験などの実施に影響が出た。しかしながら、実績の概要でも述べたとおり、神経系におけるSam68のスプライシングエラー防止の詳細なメカニズムについては、かなり詳細に解明にすることができた。最近、生殖細胞でSAM68とU1 snRNPとの相互作用が報告され (Naro et al., Cell Rep., 2019)、本研究でこの相互作用について検討したところ、神経系においてもSAM68はU1 snRNPと相互作用しており、その協調作用によってエラーを防止することが示唆された。 しかしながら、我々は今回の研究により、スプライシングエラー防止がU1 snRNPを介した経路だけでなく、神経活動などの外的刺激によっても制御されていること、これがCaMKを介したカルシウムシグナル経路であることも解明することができた。後者のRNA基質としてProtocadherin-15 (Pcdh15)を同定し、分泌型に変換されたタンパク質がgain-of-function効果によって特定のシナプス形成に影響することを明らかにしつつある。メカニズム解明、およびその破綻による影響を解明できたことから、総合的判断として本研究課題の大筋の目的は現段階でほぼ達成できたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
神経系におけるスプライシングエラー防止には、少なくともSAM68とU1 snRNPとの協調作用依存的に行われるメカニズムと、SAM68には依存的だがU1 snRNPには依存せず代わりに神経活動によって制御される二つのタイプがあることが分かりつつある。今後は神経系のトランスクリプトーム全体としてどれだけのグループがU1 snRNP/SAM68依存的であり、そうでないのかをRNA-seqやバイオインフォマティクス解析などによって網羅的に明らかにする計画である。 またこれまでの我々の解析から、本来興奮性シナプスに局在するProtocadherin-15がスプライシングエラーによって分泌型に変換されると、興味深いことにある特定のシナプス形成に影響することを明らかにしつつある。これは局在変化によるgain-of-function効果と考えられ、この異常の仕組みについてさらに解明する。 全体的に、スプライシングエラーによる3末端部の短縮は、神経細胞の発生分化よりもシナプスの成熟過程といった後半のイベントに強く影響する傾向がある。スプライシングエラー防止の破綻について動物レベルでも解析し、その生理意義と重要性から精神疾患・発達障害との関連性につい追求したいと考える。
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