研究課題/領域番号 |
20H03355
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上川内 あづさ 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (00525264)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | GABA / 歌識別能力 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
幼児は、成長初期に母語に曝されることで、その言語が持つ音の特徴を識別する能力を発達させる。このような言語発達のメカニズムを理解するための新たなモデル系として、私たちは近年、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の歌識別学習パラダイムを確立した。このパラダイムは、ショウジョウバエが求愛行動時に発する求愛歌を聞き分ける能力が、経験により上昇する、という現象に基づいて私たちが構築した実験系である。 本研究ではこの実験系を利用して、歌の識別能力の発達を担う神経回路機構の解明研究を進めた。まずは配偶行動を制御する細胞群の性分化に関わる遺伝子と、GABA合成酵素であるGad1をコードする遺伝子の両方を発現する細胞のみを標識できるショウジョウバエSplit-Gal4系統(Gal4転写因子の再構成を利用する分子遺伝学的な方法)を、ゲノム組み換えにより作成した。その結果、脳では少数のニューロンのみが、胸腹部神経節では腹部先端の神経節のニューロン群が標識される系統を得た。これを用いてGABA産生を抑制したショウジョウバエを作成し、歌の識別能力が正常に発達するかを行動実験により検証した。その結果、作成した系統で標識されるニューロンでのGABA産生の抑制により、歌の識別能力が顕著に低下する傾向が見られた。 以上の結果により、これらニューロンにおけるGABA放出が、歌の識別能力の発達に重要である可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、歌の識別能力の発達を担う神経回路機構の解明を目的としている。これに向けて、必要となるショウジョウバエSplit-Gal4系統をこれまでに整備し、行動実験を進めて順調に結果を得つつある。解析手法についても、研究協力者との議論を重ねた結果、これまでに用いていたログランク検定に加えて、より交互作用の検定に長けたコックス比例ハザード解析を取り入れることに成功した。これにより、データ解析のパイプラインを整備した。また大規模実験を可能とするため、行動実験装置も倍増させた。これらを駆使した解析の結果、歌の識別能力の発達に重要な責任GABAニューロンを絞り込みつつある。以上の結果を総合して、本研究は現在まで概ね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続き、作成したSplit-Gal4系統を用いた行動実験を進め、責任GABAニューロンの絞り込みを進める。特に、脳と腹部のどちらに存在するニューロンが責任ニューロンであるのかは、Otd遺伝子のプロモーターを利用したintersection法により、早急に特定したい。責任GABAニューロンを同定した後は、遺伝学的手法により上流や下流のニューロン群を同定することで、歌の識別能力の発達を担う神経回路構造を解明する。
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