研究課題
これまで抗エイズウイルス(HIV)薬が精力的に開発されてきた結果、エイズの発症抑制が可能となった。現在のエイズ治療における最大の目標は、HIV潜伏感染細胞の体内からの除去、すなわち完全治癒である。そのために、染色体に組み込まれたHIVを薬物で転写活性化し、免疫活性化や細胞障害によって潜伏感染細胞を除去する方法が提案され、実用化が模索されてきた。しかし臨床試験では、細胞死が十分でなかった。これに対して研究代表者らは、L-HIPPOと名付けた非天然型イノシトールリン脂質がHIV放出を抑制し、感染細胞にHIVを閉じ込めアポトーシスを誘導するユニークな現象を報告して「lock-in and apoptosis」と名付けた。エイズ完全治癒を目指してこの方法を臨床応用まで発展させるため、本研究ではL-HIPPOプロドラッグ体の構造を最適化し、医薬品候補を創出することを目的とする。誘導体設計のため、まずL-HIPPOのプロドラッグ体を合成しT細胞株を用いてアポトーシス誘導メカニズムを調べる。またL-HIPPOとその標的となるHIV Gagタンパク質のMAドメインがどのように相互作用するのか明らかにするために、X線結晶解析を行う。本年度は、L-HIPPOのIP6の部分にブチロキシメチル基を導入した化合物(Pro-L-HIPPO)の合成と精製に成功した。IP6にこの置換基を導入した化合物がプロドラッグ体となり、細胞内でIP6を放出することは報告している。Pro-L-HIPPOもプロドラック体として機能することを、次に確認する。またX線結晶解析のために、大腸菌を用いて発現させたMAとL-HIPPOの共結晶作製を試みたが、成功していない。そこで、ミリストイル化したMAや全長Gagの発現精製を行った。さらに結晶化のために、大量のL-HIPPOも合成した。次はこれらを用いて共結晶化条件を検討する。
3: やや遅れている
当初の計画では本年度前半くらいに、L-HIPPOにブチロキシメチル基を導入したプロドラッグ体(Pro-L-HIPPO)を合成し、T細胞株を用いてアポトーシス誘導メカニズムを調べる予定であった。L-HIPPOはIP6に脂質部位が導入されているものであるが、IP6そのものにこの置換基を導入した化合物の合成と精製の方法は既に確立した(Bioorg Chem, 2019, 92, 103240)。これと同じ方法でPro-L-HIPPOも合成ができると考えていたが、特にHPLCによる精製法の確立が困難を極めた。しかし今年度の終盤に、ようやくPro-L-HIPPOの合成と精製が終了し、化合物も各種スペクトルにより同定することができた。またMAとL-HIPPOのX線結晶解析も、本年度中に終える予定であった。しかし大腸菌を用いて発現させたMA(Int J Mol Sci, 2019, 20, 1675) とL-HIPPOの共結晶作成は、種々の条件下でも成功していない。そこでミリストイル化したMAやGagの発現・精製法を検討の末に確立してタンパク質を調整し、足りなくなったL-HIPPOも大量に合成した。ここで、今年度が終わりとなった。
当初の予定通り、合成したPro-L-HIPPOがプロドラッグ体として機能し、細胞内でL-HIPPOを放出して「lock-in and apoptosis」の現象を示すことをまず確認する。なおL-HIPPOの部分構造であるIP6に同じ置換基を持つ化合物がプロドラッグ体となり、細胞内でIP6を放出することは報告している (Bioorg Chem, 2019, 92, 103240)。この後にPro-L-HIPPOとT細胞株を用いて、L-HIPPOによるアポトーシス誘導メカニズムを調べる。どのHIV-1タンパク質がアポトーシスに関わるかについては、HIV-1感染性クローンpNL4-3の変異体を用いて調べる。その知見に基づいて宿主でのアポトーシス経路を推定し、ウエスタンブロット法などで活性化された宿主タンパク質を決定する。これと同時に、調整したミリストイル化したMAやGagとL-HIPPOを用いて共結晶を作製し、X線結晶解析を行う。複合体の結晶化においては、 既に共同研究を開始している高エネルギー加速器研究機構 (KEK) 構造生物学研究センターの田辺幹雄博士の協力を得る。精製タンパク質とL-HIPPOを輸送しKEKの結晶化ロボットを使用して様々な条件で結晶化を行い、X線結晶解析は同じ敷地内のシンクロトロン装置で行う。最後のステップはL-HIPPO誘導体の設計と合成であるが、前述の実験の結果を見つつ、この準備も進める。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 7件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
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