Z型配位子の新たな可能性を検証すべく、前年度までの知見をもとにDPB(diphosphine-borane)と塩化銅を組み合わせ、さらにPhICl2で酸化することで、Cu(DPB)Cl3の合成を試みた。これは従来にないCu(III)あるいは擬似的なCu(V)の合成を企図した挑戦的な試みである。検討の結果、目的の錯体は得られなかったものの、代わりにカチオン過剰型のカンターイオンを持つ[(PBP)CuCl3]2錯体が生成することを見出した。触媒としての機能を検証した結果、銀塩と処理することにより、向山アルドール反応に有効であることがわかった。 また、前例のない不斉を有する新規Z型配位子の合成も検証した。その結果、所望の錯体の合成に成功した。さらに、種々の反応において、触媒としての機能を有することも見出している。今後、エナンチオ選択制の有無や、既存の非Z型配位子系の触媒では得られない反応生の創出等を検討していく予定である。 Z型配位子含有金属触媒を用いたCO2や窒素の固定化反応を検討した。所望の結果は得られなかったものの、CO2の放出に関する新たな知見を得ることに成功した。今後、CO2変換反応も視野に入れ、さらなる検討を行っていく予定である。 以上のように、当初の目的とは異なるものの、金属触媒開発において、あるいはCO2回収という新たな領域においての新規性、有用性をもつ研究の基盤を形成することができた。
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