研究課題
我々は、ケモカイン受容体に結合して細胞遊走を制御する細胞内タンパク質FROUNT(フロント)を同定した(Nature Immunol.,2005)。また、フロントは、マクロファージの癌組織への集積を促すことでがんを増悪させること、および、嫌酒薬の一つであるジスルフィラム(DSF)がフロントに結合して、抗炎症作用を示すことを明らかにした(Nature commun, 2020)。DSFはジスルフィド結合を有している。また、DSFはフロントの分子表面に位置するシステイン周辺に相互作用することがNMR解析より明らかとなっている。そのため、DSF はシステインのチオール基と反応してフロントの機能を制御する可能性が考えられる。本研究では、システインのチオール基に作用する化合物を用いて生体内分子置換反応をひき起こすことにより、標的タンパク質の機能を制御する戦略を確立し、炎症シグナリングを抑制することを目的とする。システインの修飾が機能制御に関与し得るタンパク質群として、フロント、Toll 様受容体の細胞内制御因子TIRAP、および、転写因子 NF-κBの細胞内制御因子IκBαを標的タンパク質群とする。令和3年度は、令和2年度に同定したDSFおよびその類縁体等のシステイン反応性化合物と、標的タンパク質群との間の相互作用についてNMRとMRIを用いた解析を進めた。NMR滴定実験の結果、異なるシステイン反応性化合物間で、標的タンパク質に対する反応速度に差がある結果を得た。また、標的タンパク質群は炎症に起因する神経障害性疼痛に関与するため、システイン反応性化合物を実験動物に投与して、機能的MRI解析に基づいて疼痛抑制効果を評価した。その結果、システイン反応性化合物投与による疼痛の抑制効果が認められた。
2: おおむね順調に進展している
令和3年度は、システイン反応性化合物と標的タンパク質群の反応に関する質量分析、NMRによる結合反応のモニター実験およびMRIによるシステイン化合物の炎症抑制効果の評価実験を計画していた。進捗の概要の通り、NMRモニター実験、機能的MRI実験を実施できた。そのため、本課題はおおむね順調に進展していると考えられる。
標的タンパク質群とシステイン反応性化合物の反応について、NMRによる原子レベルの解析とMRIによる動物個体レベルの解析を進める。NMR解析については、標的タンパク質とシステイン反応性化合物の複合体を哺乳細胞に導入して、細胞内環境におけるシステイン修飾の状態をモニターする。また、標的タンパク質群を導入した細胞について、タンパク質群の細胞内局在がシステイン修飾によりどのように変化するか調べる。MRI解析については、異なるシステイン反応性化合物の炎症抑制効果を比較するため、異なるシステイン反応性化合物を投与した実験動物について、機能的MRI解析を行い、定量的に炎症による疼痛抑制効果を評価する。
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