本研究においては、運動性を評価するNMR手法の1つ“FCT法”を活用し、化合物の活性向上に対する指針を、化合物の運動性解析に基づき提示する技術を確立した。昨年度までに、MAPキナーゼ p38α阻害剤を研究対象として、結合時に遊びが残る部分を同定する技術を確立した。また、p38α中で化合物とのエンタルピックな結合を担うアミノ酸残基1残基に変異を加えることで、化合物の結合時の運動性が顕著に増大することを明らかとしていた。本年度はこれを化合物と水素結合や芳香族相互作用を行っている8残基すべてに拡大し、その普遍性を検証した。その結果、エンタルピックな結合を担う残基に対する変異導入は、そのすべてで化合物の運動性を顕著に増大させた。この結果は、運動性を評価することで、化合物とタンパク質のエンタルピックな結合を評価できることを示している。また、”動的構造解析に基づく隠れ創薬サイト:クリプティックサイトの同定・利用法の確立”については、前年度までに想定以上に研究が進み、抗がん剤標的Bcl-xLについて、クリプティックサイトを同定し、クリプティックサイトを安定化するアロステリック変異体を用いて、ヒット取得を効率化できることを示した。よって、クリプティックサイトの同定・利用法はすでに確立できている。一方、高活性であるクリプティックサイト開口状態がBcl-xL中にわずかしか存在しない理由は謎であった。一方、本年度の研究により、クリプティックサイトが開口した状態が、互いに会合しやすく、不安定であることが見いだされた。このことは活性が高いが不安定なクリプティックサイトが露出した状態をわずかしか存在させないことにより、タンパク質が構造安定性と機能性の両立を図っていることを示しており、クリプティックサイトが普遍的に存在する可能性を示している。
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