研究課題
非アルコール性脂肪性肝疾患は脂肪肝から脂肪性肝炎・肝硬変を経て肝癌へと病態が多段階に進行する病気である。病態の悪性化には、脂肪肝から脂肪性肝炎への移行の段階であると考えられているが、この移行を引き起こし、炎症の慢性化とこれに引き続く肝細胞がんの発生を誘導する責任分子については解明されていない。硫酸化糖鎖の代表例であるグリコサミノグリカンは、サイトカインや受容体との相互作用を介して免疫反応を調節し生体の恒常性維持に関わることが知られている。グリコミノグリカンの生合成を調節する酵素の一つとして Exostosin-like 2 (EXTL2) が存在する。これまでに、EXTL2 を欠損させたマウスで起こるグリコサミノグリカンの合成異常が、四塩化炭素による急性肝炎やリン負荷における血管の石灰化に密接に関連することを報告してきた。今回、野生型マウス及びEXTL2ノックアウト(EXTL2-KO)マウスを用いて非アルコール性肝炎モデルを作り、各病態ステージを比較した結果、EXTL2-KO マウスでは野生型マウスよりも早い段階で肝細胞癌のステージへ移行することがわかった。脂肪性肝炎のステージにおいて炎症性サイトカイン (TNF-α や IL-1β)の発現がEXTL2-KO マウスで有意に上昇していた。炎症性サイトカイン産生細胞であるマクロファージについて調べたところ、予想通り、炎症性サイトカインの産生が亢進していた。さらに、炎症性サイトカインの産生に関わるToll-like 4-NFκB 経路について調べた結果、EXTL2 欠損下で合成されるグリコサミノグリカン鎖がDAMPsとしてはたらき、この経路を直接活性化することがわかった。以上の結果から、合成異常を起こしたグリコサミノグリカンは、脂肪性肝炎から肝細胞がんへの進行を促進する危険因子の一つであることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
炎症に関わるグリコサミノグリカン鎖の構造と作用機序を明らかにし、その結果を論文として公表できたため
今後は、以前から作成していた硫酸化グリコサミノグリカン鎖の合成に関わる様々な酵素遺伝子の欠損マウスを用いて、特に本年度は骨疾患に関わる硫酸化グリコサミノグリカン鎖の構造変化と機能の解析を行う。また、高転移性乳がん細胞の新たな転移機構に硫酸化グリコサミノグリカン鎖の構造異常がどのように関わるのかを解析し、本年もこれらに関連する“疾患糖鎖”を糖鎖構造・生合成の面から明らかにしていく。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 1件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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