研究課題
コンドロイチン硫酸は、増殖因子などによるシグナル伝達経路を調節し、幹細胞の性質を制することが知られているが、コンドロイチン硫酸のうち、6位が硫酸化されたコンドロイチン硫酸は皮膚に存在する幹細胞の増殖を EGFR 経路を介して制御することを明らかにした。さらに、この糖鎖構造の合成低下は皮膚のバリア機能を損ね、乾癬を発症しやすい弱い皮膚を作り出すことを明らかにした。Basal-like型乳がんは、悪性度が高く予後が悪いことで知られている。このタイプの乳がんに属する細胞株の一つに BT-549があるが、我々はこれまでに、この細胞の浸潤能がコンドロイチン4-O-硫酸基転移酵素-1 (C4ST-1) によって調節されることを明らかにしている。この浸潤調節は、C4ST-1によって合成されるコンドロイチン硫酸がN-カドヘリン/β-カテニン経路を介してマトリクスメタロプロテアーゼ (MMP) の発現を制御することを機序としている。がん細胞から分泌されたMMPは、基底膜を構成する細胞外マトリクス成分を分解して浸潤能を促進するだけでなく、膜貫通型プロテオグリカンであるシンデカン-1を切断し、がん細胞の増殖に関与する。C4ST-1を欠損させたBT-549 細胞では、シンデカン-1の切断が顕著に抑制され、興味深いことに、増殖能が低下した。また、全長型シンデカン-1が MMPによって切断されると、細胞外ドメインと細胞質ドメインを生じるが、細胞質ドメインがAKTのSUMO化を誘導し、AKTの活性を上昇させることで細胞増殖を促進する可能性が示された。SUMO化はがんの素因と深く関わっていることが知られているが、この上流にC4ST-1が位置しており、シンデカン-1を介してタンパク質のSUMO化を調節することで、Basal-like 型乳がん細胞の増殖能を高めていることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
コンドロイチン硫酸が皮膚に存在する幹細胞の増殖を制御することやBasal-like 型乳がん細胞の増殖能を制御するを明らかにし、その結果を論文として公表できたため。
本年度は、以前から作成していた硫酸化グリコサミノグリカン鎖の合成に関わる様々な酵素遺伝子の欠損マウスを用いて、神経や骨、及び筋疾患に関わる硫酸化グリコサミノグリカン鎖の構造変化と機能の解析を行い、これらに関連する“疾患糖鎖”を糖鎖構造・生合成の面から明らかにしていく。
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http://www.kobepharma-u.ac.jp/~biochem/