研究実績の概要 |
脳アミロイド血管症(CAA)は、脳内の血管壁にAβが蓄積する病変であり、アルツハイマー病(AD)の80~90%の患者で認められる。脳出血を招くため、致死のリスクが高い。軽度の脳梗塞や小出血は頻発し、これによって認知症を加速させる。予防的に降圧薬が臨床使用されているが、根本的な治療薬は存在しない。CAAと診断されていないAD患者においても、血管炎症・出血・梗塞などの脳血管病変がしばしば合併するが、この合併によって認知症の症状が20倍以上に増悪する(Multiple Pathology)。CAA・AD治療において脳血管の分子機構を正常化する戦略は、認知症疾患の新たな創薬フィールドを創出できる点で意義がある。ブレインバンクから凍結とパラフィンブロックの剖検脳を提供いただき、高純度で血管を単離する手法を確立し、独自の高精度・網羅的定量プロテオミクスである「次世代型SWATH法」(責任著者, Sci Rep, 2020; 責任著者, JCBFM, 2022)によって、CAAの脳血管で線維化・アポトーシスを促進する分子機構を(責任著者, JCBFM, 2022)、ADの脳血管でリボソームの活性化(責任著者, JCBFM, 2022)を予備的に解明した。本手法は、パラフィン組織であっても生体内の真のタンパク発現量を反映した発現量プロファイルを得ることができる点でヒト病態の分子機構解析に有用である。タキシフォリン・アセタゾラミドは、CAAモデルマウスに対して治療効果がある。これらの標的タンパク質が、CAAの脳血管で確かに顕著に増加していた。リボソーム生合成の阻害作用を持つ抗がん剤を服用していると、認知症を発症する確率が低下する。これらの知見は、我々の手法で見出した分子機構は有望な創薬標的になることを強調している。東京大学の水野先生との共同研究によって、既存の化合物群について新たな薬理作用を網羅的かつ効率よく見出すことに成功し、論文発表した(責任著者, NAR Genom Bioinform、2023)。
|