近年、生活習慣病から希少難病に至るまで、細胞膜に発現するABC輸送体の活性化により、治療が実現すると考えられる治療法未確立の疾患が次々と明らかにされている。しかしながら、生体内でABC輸送体を活性化する方法論が未確立であるため、当該疾患群に対する医薬品開発は困難を極めている。本研究では、研究代表者独自の成功事例に基づき、「ABC輸送体の細胞膜を起点とする分解機構」を阻害し、ABC輸送体の細胞膜発現量を高めることが、生体におけるABC輸送体の活性化、ひいては疾病治療に繋がることを、抗動脈硬化作用を有するABC輸送体ABCA1を用いて検証する。 これまでに独自に構築したABCA1の細胞膜発現量を指標とする評価系を活用し、各種ライブラリーのスクリーニングを完了した。さらに公知データを活用した数理解析により、ライブラリースクリーニングから見出した陽性遺伝子・化合物群から真陽性の絞込みを行った。これらの工程を経て、ABCA1の分解に関わる分子機構候補を複数同定するに至った。当該機構に関連する遺伝子ノックアウト(KO)マウスを作出し、当該遺伝子がマウス肝臓においてABCA1の細胞膜発現量の制御に働くことを確認した。動脈硬化症の病態解析に汎用されるapolipoprotein E KOマウスと当該遺伝子 KOマウスを交配し、double KOマウスを作出した。現在、本double KOマウスに高脂肪食負荷を行い、当該遺伝子の抗動脈硬化作用、すなわちABCA1の細胞膜発現量増強作用を介した疾病治療の可能性について検証している。
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