研究実績の概要 |
手術残余のヒト上部および本年度より下部消化管検体を複数人分入手し、crypt由来小腸幹細胞の3D培養系および分化小腸細胞の2D培養系を確立した。 これを用いて、消化管の吸収部位差を本実験系が反映しているかを調べるべく、消化管上部・下部に偏在するトランスポーターPCFT, ASBTの発現を確認したところ、幹細胞では共に発現が確認されなかったものの、分化細胞においては、PCFTは上部でのみ、ASBTは下部でのみ優位な遺伝子発現プロファイルが確認された。また、輸送機能としての部位差を確認すべく、PCFT, ASBT各選択的基質であるmethotrexate, taurocholateの輸送を測定したところ、それぞれトランスポーター遺伝子の発現がある部位の細胞のみにおいて有意な取り込みが観察された。この結果より、本実験系は、in vitro実験系で初めてヒトにおける消化管吸収の部位差を検討できるものとなっていることが確認された。 また、旧来の消化管吸収実験系であるCaco-2細胞においては、核内転写因子PXRを介した異物解毒系分子の転写誘導が観察できないという欠点があり、その原因がPXRの発現量が消化管と比較して極めて低いこととされてきた。我々もそれを確認すると共に、本実験系ではPXRがヒト小腸に匹敵するくらいの発現を示すことが分かった。そこで、リファンピシンによるPXRを介したCYP3Aの転写誘導が確認できるかを調べたところ、CYP3A4の発現およびCYP3A基質のmidazolamの代謝活性の上昇が我々の実験系でのみ確認できた。 従って、本実験系は、創薬におけるヒト消化管吸収を予測するにあたって、旧来の実験系に置き換わる優位性を有することを確認することができた。
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