研究課題
慢性腎臓病(CKD)に伴う筋萎縮・筋力低下(サルコペニア)は生命予後と関連する。従って、CKD誘発サルコペニアに対する治療戦略の開発が希求されているものの、その病態形成機序は未だ不明な点が多い。蛋白質過酸化物(AOPPs)は腎障害の進行に伴い血清中濃度が上昇する尿毒素の一つである。本年度は、AOPPsが筋組織に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。透析患者の血清中AOPPs濃度とサルコペニアの指標となる握力の関連を評価した。CKDマウス並びにAOPPs負荷マウスを作製し、筋重量及び運動機能を評価した。In vitro評価にはマウス筋芽細胞(C2C12細胞)を用いた。透析患者のサルコペニア進展に伴い血清中AOPPs濃度は上昇し、握力と負の相関を示したことから、AOPPsはサルコペニアに関与する可能性が示された。CKDマウス並びにAOPPs負荷マウスでは筋重量の減少と筋持久力低下が観察された。本マウスの筋組織中では、AOPPs濃度の上昇とともに、炎症性サイトカイン(TNF-α)及び筋萎縮因子(myostatin/atrogin-1)の発現が上昇していた。C2C12細胞を用いた検討において、AOPPsはCD36を介して取り込まれた後、細胞内活性酸素種産生の上昇に伴い、筋萎縮に関わるTNF-α/myostatin/atrogin-1発現を上昇させた。さらに、AOPPsはC2C12細胞のミトコンドリア量並びにミトコンドリアの酸素消費速度を低下させた。CKDで上昇するAOPPsは、サルコペニアの誘発因子となることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
酸化アルブミンの1種であるAOPPsが誘発するサルコペニアの分子機構と診断マーカーとしての可能性について明らかにし論文化することができた。したがって、概ね予定通り進展していると思われる。
コロナ禍で実験の制限等もあった中でも概ね計画通りに進めることができた。今後はさらに臨床検体も増やし臨床的なエビデンスづくりにも貢献できるよう進めたい。
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