研究課題
近年、CKDにおける代謝性疾患の病態形成の一因として全身の脂肪組織が減少する脂肪萎縮が注目されている。脂肪萎縮の原因として脂肪炎症の関与が報告されているが、CKD病態下における脂肪炎症誘導の分子機構は未だ不明な点が多い。酸化損傷蛋白質(AOPPs:主にアルブミンの酸化体)はCKD病態時に血中濃度が上昇する尿毒症物質の一つである。本年度は、脂肪組織炎症におけるAOPPsの関与とその分子機構解明を目的として以下の知見を得た。1.アデニン誘発CKDマウスの精巣上体脂肪において、組織重量の減少と脂肪細胞の縮小に加えマクロファージ浸潤が観察された。また、脂肪組織中AOPPs活性の上昇が観察された。2.3T3-L1脂肪細胞にAOPPsを添加したところ、脂肪細胞中の活性酸素(ROS)及びMCP-1発現が有意に上昇した。AOPPsによるROS産生の上昇は、NADPHオキシダーゼ阻害剤及びミトコンドリアROS阻害剤共存下で抑制された。AOPPsによるMCP-1発現の上昇は抗酸化剤共存下で抑制された。3.3T3-L1脂肪細胞とRAW264.7の共培養系において、AOPPs添加群ではマクロファージの遊走が観察された。4.AOPPsはRAW264.7細胞に対してiNOS発現上昇及びCD206発現低下を誘導し、TNF-alfa発現を上昇させた。AOPPs処置RAW264.7細胞の培養上清を3T3-L1脂肪細胞に添加したところ、3T3-L1脂肪細胞におけるTNF-alfa及びIL-6発現が有意に上昇した。5.4週齢ICRマウスにAOPPsを7週間連日負荷させた際の精巣上体脂肪を評価したところ、AOPPs負荷群の精巣上体脂肪において重量の減少が観察された。以上より、AOPPsがマクロファージを介して脂肪組織炎症に関わることを示し、CKDで観察される脂肪萎縮の病態形成に関与する可能性を見出した。
2: おおむね順調に進展している
本年度はアルブミンの酸化修飾体による脂肪炎症とその分子機構を明らかにした。本成果は学術論文(Toxins, 2023)として報告することができた。従って、研究計画はおおむね順調に進んでいるものと思われる。
腎疾患患者における網羅的アルブミン翻訳後修飾解析を続け、アルブミン翻訳後修飾の臨床的意義を明らかにするととともに、非臨床試験においてその病態生理学的役割を明らかにする。共同研究により新たな臨床試験がスタートする予定である。臨床試験と非臨床試験から本研究課題の達成を推進する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Toxins
巻: 15 ページ: 179
10.3390/toxins15030179
Biol Pharm Bull
巻: 45 ページ: 1728-1732
10.1248/bpb.b22-00586
http://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/Labs/Yakuzai/