研究課題
悪性脳腫瘍の膠芽腫は、あらゆるがんの中でも最も予後不良であり、5年生存率が10%以下の難治性がんである。近年、グリオーマ幹細胞(Glioma-initiating cell=GIC)などの微量の治療抵抗性細胞群が膠芽腫の悪性化進展や抗がん剤に対する抵抗性を担うことが示されている。申請者は、E3ユビキチンリガーゼSmad specific E3 ubiquitin protein ligase 2(Smurf2)の新規リン酸化サイト(Thr249)を発見し、そのリン酸化修飾がGICの幹細胞性制御およびグリオーマ進展制御に重要な役割を果たしていることを見出した。本年度は、Smurf2Thr249のリン酸化修飾を調節する因子とキナーゼを同定を行った。ヒトグリオーマ幹細胞に様々な幹細胞調節因子の組換えタンパク質を添加し、pSmurf2Thr249抗体を用いて経時的にリン酸化レベルを測定した。その結果、TGF-bがSmurf2Thr249のリン酸化レベルを著明に低下させることが明らかになった。さらに、in silico解析により、Smurf2Thr249のリン酸化調節を担う候補キナーゼを探索し、過剰発現系やドミナントネガティブ体導入による絞り込みを行ったところ、特定のCDKキナーゼファミリーが候補因子として同定された。さらに、グリオーマ患者の腫瘍部位と正常部位を用いて、Smurf2Thr249のリン酸化解析を行った。その結果グリオーマの進展度に応じて、Smurf2Thr249リン酸化レベルの低下が認められた。以上の結果から、GICにおいてTGF-bおよびCDKファミリーがSmurf2Thr249のリン酸化調節因子であることが示され、さらにヒトグリオーマ進展度とSmurf2Thr249のリン酸化修飾との相関性が明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、がん幹細胞におけるSmurf2Thr249のリン酸化調節を担うサイトカインおよびキナーゼの探索を行い、TGF-bおよびCDKが関与することを明らかにした。さらに病理検体の解析により、グリオーマの悪性度とSmurf2Thr249のリン酸化が相関することを明らかにした。すなわち「Smurf2上流のグリオーマ進展に関与する責任因子」の同定に成功し、本成果のヒト外挿性も確認できたことから、「おおむね順調に進展している」と考えられる。
今後は、Smurf2Thr249の脱リン酸化を阻害する低分子化合物(=Smurf2活性化剤)の探索・同定と、同定化合物のヒトグリオーマ幹細胞とモデルマウスでの薬理学的効果を検証する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Commun. Biol.
巻: 5 ページ: 22
10.1038/s42003-021-02950-0