研究課題/領域番号 |
20H03418
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中村 和弘 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (00548521)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 心理ストレス / 交感神経 / 大脳皮質 / 視床下部 / 皮質辺縁系 / ファイバーフォトメトリー / in vivoカルシウムイメージング / 情動 |
研究実績の概要 |
ヒトを含めた哺乳類が心理ストレスを受けると、体温上昇や頻脈などの様々な交感神経反応が生じる。こうした基本的な生理反応の中枢神経回路メカニズムは未解明である。研究代表者らは最近、心理ストレス信号を大脳皮質腹内側前頭前野(dorsal peduncular cortex/dorsal tenia tecta: DP/DTT)から視床下部の背内側部(dorsomedial hypothalamus: DMH)へ伝達して多様なストレス反応を惹起するマスター神経路を発見した。 その神経路の上位でストレスや情動を処理する皮質辺縁系の神経回路を解明するという本研究の目標の達成のため、今年度はまず、DP/DTTへ心理ストレス信号を入力する上位の脳領域の探索を行った。逆行性神経トレーサーをラットのDP/DTTへ注入し、そのラットに社会的敗北ストレスを与えると、トレーサーで逆行性標識され、活性化マーカーであるFosを発現する神経細胞群が複数の皮質辺縁系領域において観察された。これらは心理ストレス信号をDP/DTTへ直接入力する皮質辺縁系神経細胞群の候補と考えられる。 次に、これらの上位脳領域からDP/DTTへの信号伝達の計測や人為的制御を行うためのアデノ随伴ウイルス(AAV)発現系の構築を行った。逆行性に感染するAAVをDP/DTTへ注入したところ、上述のトレーサー実験で逆行性標識されたものと同様の皮質辺縁系領域の神経細胞群に緑色Ca2+プローブであるGCaMP6を発現させることに成功した。また今年度は、次年度以降のファイバーフォトメトリー計測に用いる計測システムの構築を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の主要な研究計画は、DP/DTTへ心理ストレス信号を入力する上位の脳領域の探索を行い、次年度以降の神経路選択的な伝達活動計測と活動制御実験に必要な基盤技術を確立することであった。逆行性感染AAVを用いたDP/DTTの上位の脳領域の探索実験では、逆行性神経トレーサー実験の結果に齟齬がなく、このAAVを用いたin vivo発現系を用いることで次年度以降のファイバーフォトメトリー計測を行うことができることがわかった。コロナ禍の影響により、次年度以降に実施するファイバーフォトメトリー計測に用いる機器の一部の納品遅れが生じているものの、予算の年度繰越を行うことにより研究計画に大きな影響が出ない見込みである。以上の研究進捗状況に鑑み、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、上位の皮質辺縁系からDP/DTTへの神経路の情報伝達をin vivoカルシウムイメージングにより光計測するファイバーフォトメトリーに用いる計測システムの構築を継続するとともに、逆行性感染AAVを用いたDP/DTTの上位の皮質辺縁系神経細胞群への遺伝子導入の効率を向上させるため、AAVの改良やAAV注入条件の検討などを行う予定である。
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