社会的ストレスが加わったとき生体がそのストレスに応じ適切な行動を選択し対処することは適応的である。例えば、攻撃的な優位個体に遭遇し攻撃を仕掛けられれた場合、逃走が可能であれば逃走し、逃走ができない状況であれば敗北(服従)姿勢を優位個体に示し優位個体からの攻撃を抑制する、といった積極的なストレス対処行動を状況に応じて選択することは適応的である。しかし、この積極的対処行動を選択するための神経機構は分っていない。本研究では、積極的な社会的対処行動をオキシトシン-オキシトシン受容体系が担っているという仮説を検証することを目的としている。2021年度は中脳中心灰白質のオキシトシン受容体発現ニューロンの働きについて研究を行った。オキシトシン受容体発現ニューロンに選択的に蛍光蛋白質を発現しているノックインマウスを用いてオキシトシン受容体発現ニューロンの分布を検討し、腹外側の中脳中心灰白質に主に存在していることを確認した。オキシトシン受容体発現ニューロンに選択的にCreを発現するノックインマウスとアデノ随伴ウイルスベクターの局所投与を用い、中脳中心灰白質オキシトシン受容体発現細胞に選択的に刺激型の人工受容体を発現させた。人工受容体に対するアゴニストを投与すると、優位個体からの攻撃という社会的ストレス負荷に対し、すくみ行動を示す時間が短縮した。このデータは、中脳中心灰白質のオキシトシン受容体発現ニューロンは優位個体に対するすくみ行動を抑制していることを示唆している。
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