本研究の目的は、オキシトシン-オキシトシン受容体系がストレス負荷時の積極的対処行動を担っているという仮説を検証することである。このために、同種優位個体に暴露されたときに観察される積極的な社会的対処行動を検討した。 攻撃的な優位個体に暴露されるとマウスは逃げることが可能であれば逃走行動を示し、逃走ができない場合には、社会的敗北姿勢である、立ち上がり腹部を相手に提示するという敗北姿勢を示す。これまで申請者はこの社会的敗北姿勢を示したとき、①視床下部室傍核と視索上核のオキシトシン産生ニューロンと視床下部腹内側核オキシトシン受容体発現ニューロンが活性化することを見出だした。さらに、②視床下部腹内側核のオキシトシン受容体ニューロンを人工受容体発現させ活性化すると社会的敗北姿勢が増加し、③conditionalオキシトシン受容体欠損マウスを用いて、視床下部腹内側核のオキシトシン受容体を欠損させると社会的敗北姿勢が減少することを見出した。これらのデータは、視床下部腹内側核のオキシトシン受容体が社会的敗北姿勢を促進させていることを示す。 しかし、社会的敗北姿勢を担うオキシトシン産生細胞は同定されていなかった。本年度は、逆行性ウイルスベクターを使用し、オキシトシン受容体が局在する視床下部腹内側核に投射するオキシトシン産生細胞の同定を試みた。 逆行性に運搬されるウイルスベクターをオキシトシン受容体が発現している視床下部腹内側核腹外側部の局所に投与したところ、視床下部室傍核、視索上核、分界条床核に存在するオキシトシン産生ニューロンのうち、視床下部室傍核のオキシトシン産生ニューロンが逆行性トレーサー陽性となった。従って、視床下部室傍核のオキシトシン産生ニューロンが視床下部腹内側核に投射すると考えられる。
|