研究課題/領域番号 |
20H03422
|
研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
三谷 昌平 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (90192757)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 線虫 / 全身性RNA干渉 / 亜鉛輸送体 / Rab GAP / 亜鉛濃度 / 開口放出 |
研究実績の概要 |
本研究では、RNA干渉(RNAi)が細胞間で伝播する現象に焦点を当て、それに関わる小胞輸送分子の機能解析を行う。線虫で最初に見つかった全身性RNAi(ある組織でRNAiが起こると別の組織に同様の効果が伝播すること)の分子細胞メカニズムとその生理学的意義の解明を目指している。我々はこの現象に関与する新たな分子を多数発見しているが、その中で亜鉛トランスポーターとRab GAPタンパク質に焦点を当てて、作用メカニズムを線虫遺伝学を利用して解析している。(テーマ1)亜鉛トランスポーター変異体がEri表現型(RNAi増強)を呈することから、亜鉛による制御を受ける分子でどのような表現型を持つかを調べた。アルカリフォスファターゼの亜鉛依存性を呈する場合があり、変異体では、Eri表現型を示し、亜鉛依存性転写因子の一つの変異体もEri表現型を示す。亜鉛添加条件下でRNAiが抑制されることから、これらが亜鉛依存的にRNAiを抑制している可能性が示唆される。 (テーマ2)TBCドメインはRab GAP活性を持つことが知られるが、そのうちの一つの変異体で全身性RNAiの減弱を呈する。我々が発見した新規分子(これをREXD-1と名付けた)の変異体では、dsRNAの放出が低下するが、RNAi以外の放出にもREXD-1が関与するか解析した。放出型のGFPを体壁筋で発現すると擬体腔への蛍光の放出がモニター可能である。REXD-1はこの現象には不要であった。そのほか、神経伝達物質の放出が正常である(運動などが正常に起こる)など、他の開口放出の仕組みとは関係ないことが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RNA干渉の際のdsRNAが細胞内外でどのように輸送されているかは断片的な理解しかできていない。亜鉛輸送体の作用については、遺伝学解析によって機能的に相互作用する分子がとても多数見つかり、亜鉛との関連もより核心に近づきつつある。我々が発見した新規分子の相互関係を明らかにできるのは時間の問題であると思われる。亜鉛輸送体の系は、細胞内での移動や細胞外からの取り込みに関わっており、Rab GAPタンパク質の系は分泌に関わっており、かつ、RNA干渉に特異的なシステムであることが解明されつつある。重要な点は、これまで小胞輸送に関わっているかどうか分かっていない分子もRNAi関連の小胞輸送分子として見出され、既知の小胞輸送分子との相互作用により、小胞輸送に関わる仕組みが解明できる点である。この分野での重要な貢献となると期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
上述のようにdsRNAの取り込みと放出に関わる分子や分子メカニズムが少しずつ解明されつつある。線虫遺伝学を中心的な手法として解析を進めているが、分子メカニズムなどが明らかになったものについては、ヒト細胞でも同様の仕組みが使用されているか、相同分子の機能を解析することで進めたい。RNA干渉は発見された当初は治療にも有用との期待があったが、現状での大勢は細胞へのsiRNAの投与による実験に使用されている例が多い。したがって、発見した分子や仕組みは比較的応用に結びつき易いのは培養細胞などの実験の効率化である。しかし、そこで作用が明確になれば癌や感染症などの治療が難しい疾患群への応用を検討したい。
|