本研究では、RNA干渉(RNAi)が細胞間で伝播する現象に焦点を当て、それに関わる小胞輸送分子の機能解析を行う。線虫で最初に見つかった全身性RNAi(ある組織 でRNAiが起こると別の組織に同様の効果が伝播すること)の分子細胞メカニズムとその生理学的意義の解明を目指している。線虫においては、餌の大腸菌に二本鎖RNAを発現させておき、それを食べさせることでRNAiの作用を検出可能である。(テーマ1)亜鉛輸送担体(ZIPT-9)はヒトZIP9/SLC39A9のホモログである。ZIPT-9はRNAiの阻害効果を持っており、RNAiが起こり難くなる変異体rsd-3、sid-3、sid-5などの表現型を抑圧することが分かった。線虫のSLC30とSLC39ホモログ(亜鉛トランスポータ)全部の解析では、zipt-9変異体が唯一のRNAi増強効果を持っていた。細胞質のZn濃度を変化させるだけでは不十分で局所のZn濃度の調節がRNAiに重要であると考えられる。zipt-9と拮抗する分子rsd-3、sid-3、sid-5の二重変異体ではほぼRNAiが起こらなくなる。(テーマ2)RNAiに対しての表現型が弱くなる変異体の順遺伝学的なスクリーニングを行った結果、REXD-1とTBC-3が全身性RNAiに必要な分子であることを見出した。既知のSID-5と冗長的に働き、三重変異体では全身性RNAiが観察されなくなった。これらの分子は大腸菌が作る二本鎖RNAの腸管からの擬態腔への放出に必要であったが、細胞への取り込みには不要であった。(まとめ)2テーマの結果より、二本鎖RNAの取り込みと放出に必須の経路の両方について、冗長性を含めてRNAiの基本的な経路をカバーしていることが解明された。それぞれの分子と同一の経路で働くか否かを検証することで、RNAiの伝搬に関わる分子全体の関係を示す可能性が示された。
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