Voltage Clamp Fluorometry (VCF) の一方法である、蛍光非天然アミノ酸Anapと遷移金属イオン間のtmFRETの解析により膜タンパク質の構造変化を捉える方法論の確立を目指して研究を行った。今年度、新たにHv1チャネルを対象として検討を進めた。アンバーコドンUAGにAnapを取り込ませるコンストラクトのタンパク質発現を高めることを目的として、UAGが本来のストップコドンと認識されて翻訳が止まることを抑えるeRF1のE55D変異体を共発現する実験を行い、効果を観察した。また、遷移金属イオンラベルに用いるTETAC-Cu2+ の濃度について検討を行い、卵母細胞を良好に保つためには、0.1mM程度が至適濃度であることを明らかにした。 また、VCFの別方法としてCys残基にラベルした蛍光物質の蛍光強度変化の測定により、TPC3 の膜電位センサーの動的構造変化の解析を継続した。TPCは、2種類の異なる刺激(膜電位と化学物質PIP2)によりゲートを開閉する。主として、TPC3チャネルの場合は膜電位によって、TPC2の場合はPIP2によって決まるが、違いを生み出す機構は未解明であった。新たに、TPC3において、TPC2のようにPIP2結合によって開閉を決定できる特殊なモードが存在することを見出し、TPCのタイプ間の違いを生み出す機構を明らかにした。成果をPNAS USA誌に発表した。 さらに、マギル大学(カナダ)の Derek Bowie 教授研究グループと、心筋型膜電位依存性Na+チャネルNav1.4に関する国際共同研究を実施し、VCF法による動的構造変化の解析を担当した。NaV1.4の特徴的なふるまいが、他のNa+チャネルよりも閉状態直結の不活性化状態に入りやすい性質によることを明らかにし、J Gen Physiol 誌に成果を発表した。
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