研究実績の概要 |
ヒトを含む高等真核生物の核内転写機構は非常に複雑であり、転写の開始、終結に関してもまだ不明な点が多い。我々はこれまでにヒト血管内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cells; HUVECs)を用いて、Vascular Endothelial Cell Growth Factor (VEGF)刺激が加わった際に一過性に転写される遺伝子に着目し、その転写解析を行なってきた(2014 Suehiro JI et alなど)。HUVECsにVEGF刺激を行うと、血管新生に重要な転写因子EGR3, EGR2, NR4A2などが刺激後数分で転写され、1時間後には転写が集結していることを見出している。本研究では、これら即時誘導遺伝子の転写におけるクロマチン状態を詳細に解析した。 まず、刺激前のHUVECsのEGR3遺伝子座では、染色体はcloseな状態であり、抑制系ヒストン修飾であるH3K27me3、H2AK119Ubが入っていることが明らかとなり、この時にRNA polymerase IIは遺伝子座には存在していなかった。刺激を加えると、3分程度でPol IIがリクルートされ、更にリン酸化されること、H2AK119Ub修飾が減少すること、活性化修飾であるH3K4me3修飾が入ることを見出した。哺乳類においてH3K4me3修飾を担うのはSET1A/1B複合体、MLL1/2複合体、MLL3/4複合体などである。このうち、どれが血管新生に重要かを明らかにするために、それぞれの因子のsiRNAを用いて網羅的にスクリーニングした。この結果、特にMLL3/4複合体が重要であることを見出し、この複合体の中でもPTIPがkeyであることも同定した。PTIPのin vitro, in vivoでの働きを調べたところ、血管新生に重要な新たなエピゲノム因子とであることが分かった。 これらの発見は、これまでにない血管新生阻害薬の開発の基礎となる重要な知見である。
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