研究課題/領域番号 |
20H03435
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
内藤 尚道 大阪大学, 微生物病研究所, 准教授 (30570676)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 血管内皮細胞 / 細胞多様性 / 一細胞解析 / 疾患特異的内皮細胞 |
研究実績の概要 |
これまでの血管研究では、血管の内腔を覆う血管内皮細胞は均一であるとされてきた。しかし実際は、血管内皮細胞は機能的・形態的に多様性に富む細胞集団であることが明らかになりつつある。本研究では血管内皮細胞を分離する特殊な技術と最先端の細胞解析技術であるシングルセル解析を組み合わせる事で、血管内皮細胞の多様性の解明に取り組み、新たな内皮細胞分類の確立を目指す。血管内皮細胞は腫瘍、虚血性疾患、炎症生疾患、線維症を始め様々な疾患病態の形成に関与しているが、これらの疾患病態を解釈する際も、血管内皮細胞は均一であるとされ、血管内皮細胞の多様性は考慮されていない。本研究では、このような既存の概念の転換を目指し、血管内皮細胞の多様性という概念を導入することで、病態形成機序を捉え直す。 本年度は病態モデルにおける血管内皮細胞の多様性を検討する準備段階として、正常臓器の血管内皮細胞を、シングルセル技術を用いて解析して、内皮細胞多様性を明らかにした。最初に肝臓、肺、筋肉、皮膚からCD31陽性CD45陰性の血管内皮細胞をフローサイトメーターにて分離した。細胞の品質確認の後、10Xシステムを用いてシングルセル解析を行った。高度な情報処理を行い、UMAP圧縮にて血管内皮細胞を2次元で可視化して、血管内皮細胞のクラスタリングを行なった。細分化した各血管内皮細胞クラスターで特異的に発現する遺伝子を抽出して、in situハイブリダイゼーション、免疫染色、フローサイトメーターにより各分画の分離を試みた。一部の遺伝子により、血管内皮細胞を細分画化できた。また遺伝子をクローニングして培養内皮細胞株に導入して、遺伝子機能解析を行なった。またこれまでに報告してきたCD157陽性血管内皮幹細胞も特定のクラスターに集積していた。血管内皮幹細胞分画を生体内でイメージングするモデルマウスの作製を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はこれまでの経験をもとに、当初の計画通りに複数の正常臓器でシングルセル解析を行うための解析系を確立して、実際に解析を行った。データ解析も順調に進み複数の正常臓器における血管内皮細胞の多様性を解明した。正常臓器間における遺伝子発現の比較、臓器内における比較も実施し、臓器特異的な内皮細胞クラスターの遺伝子発現情報を取得した。遺伝子機能解析にも着手し、さらには遺伝子組み換え動物の作製を開始した。これらの結果から本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降はマウス疾患モデルを用いて疾患病態における血管内皮細胞の多様性を解明する。また本年度実施した生理的条件下における複数の臓器の血管内皮細胞一細胞遺伝子発現情報を基に、細分化された内皮細胞の機能解析を行う。内皮細胞分画を生体内で可視化するモデルマウスの作製に取り組むため、専門家の協力を得る予定である。2021年度は疾患モデルの構築と、各モデルでのシングルセル解析の実施、データ解析、正常臓器との比較による疾患特異性の解明を目標とする。 具体的にはマウス皮下腫瘍、下肢虚血、LPS誘導肺炎、CCl4誘導肝線維化モデルを作製し、それぞれのモデルから血管内皮細胞を分離してシングルセル解析を行う。その結果を正常臓器の血管内皮細胞と比較することで、内皮細胞クラスター分布の変化と遺伝子発現の変化を明らかにする。疾患特異的内皮細胞クラスターや、そのクラスター特異的遺伝子を明らかにする。疾患特異的内皮細胞クラスターに高発現する遺伝子を抽出し、その上で、タンパク質レベルで内皮細胞クラスターを同定し、さらにin vitroで機能解析を行う。正常と比較して優位に変化する遺伝子を10以上抽出し、マウスから分離した内皮細胞を用いて遺伝子のノックダウンまたは過剰発現を行うことで遺伝子改変内皮細胞を作製する。作製した内皮細胞を用いて細胞機能解析を行い、遺伝子の機能を明らかにする。さらには疾患モデルと同等の負荷を、作製した内皮細胞に誘導することで、生体内での現象を再現して機能解析を行う予定である。
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