血管の内腔を覆う血管内皮細胞は、機能的・形態的に多様性に富む細胞であるが、現在の血管研究では、全ての血管内皮細胞は本質的に同じで、血管内皮細胞が示す細胞多様性は環境依存的であるとされている。私たちは、このような概念は必ずしも正確ではなく、血管内皮細胞には分化段階での細胞多様性が存在することを明らかにした。本研究では、これまでの研究を発展させ、一細胞遺伝子発現解析を利用することで、血管内皮細胞の細胞多様性を解明し、新たな血管内皮細胞分類の確立を目指す。また血管内皮細胞の細胞多様性という概念を確立することで、さまざまな疾患の病態形成機序を捉え直すことを目的として研究に取り組んだ。 本研究を通じて、複数の正常組織の血管内皮細胞の細胞多様性を明らかにした。また下肢虚血モデル、腫瘍モデルにおける1細胞遺伝子発現解析を行なった。その結果、下肢虚血モデルおよび腫瘍モデルで新たな血管内皮細胞クラスターが出現することを明らかにした。その血管内皮細胞クラスターは、マクロファージ、好中球、T細胞と相互作用していた。特にT細胞との相互作用に働く因子を絞り込み、その相互作用を阻害することで、血管に明らかな形態的変化を認めることなく、腫瘍縮小効果を認めた。この結果は血管内皮細胞の特定の細胞画分を標的とすることで、実際に疾患治療が可能でることを示唆しており、血管内皮細胞の細胞多様性の生物学的意義を示すこととなり、血管内皮細胞の細胞多様性という概念の確立につながる基礎研究が達成できた。
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