研究課題/領域番号 |
20H03436
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
諸橋 憲一郎 九州大学, 医学研究院, 主幹教授 (30183114)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 副腎皮質 / 性差 / 糖質コルチコイド / 骨格筋 / Ad4BP |
研究実績の概要 |
齧歯類ではメスの副腎はオスのおよそ2倍の重量を有すること、血中糖質コルチコイドもメスの方が多いことが知られている。申請者は、この性差は男性ホルモンによる抑制が大きく寄与すること、さらに細胞あたりのRNA量(total RNAとpoly(A) RNA)もメスの方が2-3倍多いなどの興味深いデータを得てきた。一方、申請者は副腎皮質細胞にてステロイドホルモン産生系遺伝子の制御を担う転写因子Ad4BPを同定し、この因子が副腎皮質の形成に必須であること、また最近では解糖系、コレステロール産生系、NADPH産生系の遺伝子群の制御を通じ、これらの代謝系の制御にも関与することを明らかにした。興味深いことに、Ad4BPの発現もメスがオスの2倍ほどであった。また、このAd4BPの発現は男性ホルモンによって抑制されることが明らかになった。上記の成果をもとに、雌雄、性腺摘出マウス、摘出後の性ホルモン処理マウスの副腎皮質のトランスクリプトームを比較すると、男性ホルモンによって副腎皮質に発現するほぼ全ての遺伝子の発現が抑制されていた。また、Ad4BPのゲノム上の集積箇所を調べたところ、発現する遺伝子のほぼ半数がAd4BPによって制御されている可能性が示めされた。以上の結果は、男性ホルモンによるAd4BPの発現抑制がオスの副腎皮質形成を抑制し、糖質コルチコイド産生を減少させることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
副腎皮質をEGFPでラベルしたマウスの副腎皮質より顕微操作によって、束状層のみを単離するための方法を確立した。得られた細胞集団には副腎皮質の他の層や血管などの細胞が含まれていないことは確認している。この方法によって得られた雌雄の副腎皮質束状層細胞よりRNAを調製し、トランスクリプトームを取得した。遺伝子発現を雌雄で比較すると、発現しているほぼ全ての遺伝子の発現はメスの方が高いことが明らかになった。また、このようにオスで低い遺伝子発現は男性ホルモンによる抑制の結果であることが示された。しかしながら、男性ホルモンと受容体が直接、多数の遺伝子発現を抑制することのメカニズムの理解は困難と思われた。そこで、副腎皮質の機能の獲得と維持にとって非常に重要な転写因子Ad4BPの関連を調べた。その結果、Ad4BPの発現も男性ホルモンによって抑制されることが示された。 そこで、Ad4BPの標的遺伝子への集積をCut&Run法によって検討した。その結果、Ad4BPは副腎皮質で発現する遺伝子のほぼ半数の遺伝子に結合し、これらの遺伝子の制御に関わっていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
上記の結果は、男性ホルモンによって抑制される副腎皮質の形態、機能がAd4BPの男性ホルモンによる発現の抑制によって説明されることを示唆している。また、男性ホルモンは直接的な制御のほかに、副腎皮質における糖質コルチコイド産生を通じて、他の臓器、器官、細胞に性差を誘導する可能性が考えられた。実際に糖質コルチコイドは異化作用を通じ、骨格筋を減少させる活性を有しており、骨格筋サイズの雌雄差が、男性ホルモンによる直接的な抑制に加え、糖質コルチコイドを介した抑制メカニズムの存在が示唆された。そこで、Ad4BP遺伝子のヘテロ欠損マウスを用い、この点を検討する。Ad4BP遺伝子のヘテロ欠損マウスの副腎皮質は矮小化している。 実験では、この雌雄ヘテロマウスをそれぞれ10匹以上準備する。副腎束状層細胞の遺伝子発現、血中の糖質コルチコイド量を調べる。遺伝子発現については前年度と同様の手法によってトランスクリプトームを取得する。また、マウスの取り扱いによって血中の糖質コルチコイド量が大きく変動することが知られており、糖質コルチコイドの測定については専門家の援助をお願いしている。骨格筋のサイズの計測については、既に研究室に豊富な経験を蓄積している。Ad4BP遺伝子のヘテロ欠損マウスでは血中の糖質コルチコイド量の減少が期待され、それに伴い骨格筋サイズの増加が期待されるため、次年度はこの点を明らかにする。
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