研究課題/領域番号 |
20H03439
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
村野 健作 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (80535295)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トランスポゾン / 転写共役抑制 / 小分子RNA |
研究実績の概要 |
生殖細胞系列で転移と増殖を繰り返すトランスポゾンは、生命の次世代継承にとって脅威である。非コード小分子RNA(piRNA)とPiwiタンパク質の複合体は、配列情報と相補的なトランスポゾンを標的とし、周辺にヘテロクロマチンを形成することで抑制している。我々はPiwi-piRNA複合体と相互作用し、トランスポゾンを抑制する因子としてNxf2 (Nuclear RNA export factor 2)を同定した。Nxf2はmRNAの核外輸送に関与はせず、ヘテロクロマチンを形成する前にトランスポゾンの転写反応を抑制することを明らかにした (Murano K et al., EMBO J 2019)。しかし、その転写抑制メカニズムは不明である。本研究では、転写と共役させた系を用いてNxf2の相互作用因子を探索し、Piwi-piRNA経路によるトランスポゾンの転写抑制機構を解明する。 本研究では、Nxf2-p15-Panx複合体によるトランスポゾンの転写反応抑制機構の解明を通して、Piwi-piRNA経路による生殖ゲノム恒常性維持の全体像を理解する。これまでに、Piwi-piRNA経路によるトランスポゾンの転写抑制は、少なくとも二段階に分けられることが分かった。特に初期段階での転写抑制機構に焦点をあて、転写と共役させた誘導係留レポーターシステムを用いて新生mRNA上におけるNxf2-p15-Panx複合体の相互作用因子の探索を行なった。新生mRNA上へ係留されたラムダNタンパク質を融合したNxf2を免疫沈降法により精製し、相互作用する因子を質量分析法により多数同定した。今後、同定した因子のトランスポゾン 抑制活性を評価し、Piwi-piRNA経路による転写反応と共役した転写抑制機構の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Nxf2-p15-Panx複合体による転写抑制機構を解明するために、新生mRNA上においてNxf2-p15-Panx複合体と相互作用する協働因子、あるいはPol II 転写を正に制御する標的因子の同定が必要である。Nxf2による転写抑制活性を調べるため、レポーター遺伝子をゲノムに保持した培養細胞株(OSC::Ub-14boxB-Luciferase)を構築した。ラムダNタンパク質を融合したNxf2を発現するプラスミドをエレクトロポレーションにより導入すると、ラムダN-Nxf2は14個のboxB配列を持つ新生mRNA上へ係留される。その結果、ルシフェラーゼ活性およびルシフェラーゼmRNAレベルは10%程度まで抑制される。一方、ラムダNタンパク質を融合しないNxf2を発現させた場合は、ルシフェラーゼ活性に影響しないことから、新生mRNA上に係留された場合に、転写反応を抑制することがわかっている (Murano K et al., EMBO J 2019)。この実験系は着目因子の転写抑制活性を簡便に評価できる非常に優れたシステムである。すでに稼働している本係留レポーターシステムを用い、ラムダN-flag-Nxf2と相互作用する因子の同定に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
同定した因子について、これらがトランスポゾンの抑制に関与するかを検証する。候補因子のノックダウン実験を行い定量的PCRとRNA-seqにより、脱抑制されるトランスポゾンの種類と発現量を解析する。さらに候補因子の抗体を作製し、免疫沈降実験、ChIP-seq、CLIP-seqを行い、相互作用様式や相互作用DNA/RNA領域の同定を進める。また、新生mRNAへの誘導係留システムとNET-seq法を用いて、Pol II 転写への影響を経時的に検証する。以上の解析からNxf2-p15-Panx複合体の作用点の同定と、そのステップを担う責任因子群の機能を合わせて理解する。また、ショウジョウバエ個体を用い、卵巣での役割を検討する。
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