研究課題/領域番号 |
20H03447
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
菅波 孝祥 名古屋大学, 環境医学研究所, 教授 (50343752)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 慢性炎症 / 肥満 / NASH / マクロファージ |
研究実績の概要 |
これまでに、死細胞センサーのMincleに着目して、脂肪組織やNASHにおける慢性炎症の分子機構を検討してきた。本年度は、Mincleと同様にITAMシグナルを有するDAP12に着目して、過栄養が誘導する慢性炎症における意義を検討した。また、肝臓の慢性炎症は最終的に肝がんの発症に至る可能性があるため、新たな動物モデルを作製し、その有効性を検証した。 1)疾患・臓器特異的な死細胞センサーの同定;DAP12は、Trem2などと会合して細胞内にITAMシグナルを伝える。本年度は、全身でDAP12を欠損マウス、および骨髄細胞特異的にDAP12を欠損するマウスを用いて肥満やNASHを誘導し、脂肪組織や肝臓の炎症・線維化に及ぼす影響を検討した。その結果、DAP12欠損は、体重増加には影響を及ぼさず、脂肪組織の炎症を強力に抑制し、全身の糖代謝を改善した。一方で、NASH病変は増悪し、脂肪組織と肝臓で異なる役割を果たす可能性が示唆された。 2)短期間でNASH肝がんを発症する動物モデルの確立と病態モデルとしての意義の検討;研究代表者は既に、遺伝性に肥満を呈するMC4R欠損マウスに高脂肪食を負荷することで、肥満やインスリン抵抗性を背景に、脂肪肝、NASH、肝細胞がんを経時的に発症するユニークな動物モデルを確立している。しかしながら、本モデルでは肝がんの発症に約1年を要することが技術的な障壁であった。そこで、化学発がん剤(DEN)と本モデルを組み合わせることで、約3ヶ月でNASH肝がんを発症する新たな動物モデルを確立し、抗糖尿病薬として既に臨床応用されているSGLT2阻害薬の効果を検討した。その結果、SGLT2阻害薬は、体重増加の抑制や血糖値の改善など予想通りの効果を発揮するとともに、肝線維化の抑制や肝がんの進展抑制に働くことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年、過栄養に伴う代謝ストレスが慢性炎症を誘導し、生活習慣病の病態基盤となることが注目されている。本研究では、どのような細胞死が、どのようにして疾患・臓器特異的に炎症慢性化をもたらすかを解明し、新たな病態メカニズムの解明を目指している。2020年度は新型コロナ感染症の感染拡大により、当初予定していたマウスの繁殖・実験に支障を来したが、2021年度は様々な制約の中でも、順調に研究を遂行することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、実質細胞(肝細胞、脂肪細胞)の細胞死を核としてマクロファージが集積する特徴的な微小環境(CLS: crown-like structure)に着目して、炎症慢性化における病態生理的意義を検討してきた。また、慢性炎症の結果として生じる発がんを検討する動物モデルの作製にも成功した。最終年度は、以下の項目に取り組み、代謝性組織リモデリングにおける死細胞応答の分子機構を明らかにしたい。 1.肥満の脂肪組織炎症におけるDAP12の意義に関する検討;昨年度までに、DAP12欠損が肥満の脂肪組織炎症を強力に抑制することを示した。この分子メカニズムとして、マクロファージの遊走におけるDAP12の役割を検討する。DAP12欠損マウスおよび正常マウスから骨髄細胞を調製し、異なる蛍光標識を行った上で肥満マウスに移入する。脂肪組織に浸潤したマクロファージ数を比較することで、遊走におけるDAP12の意義を明らかにする。 2.NASHの肝線維化におけるDAP12の意義に関する検討;昨年度までに、DAP12欠損がNASHモデルにおける肝線維化が増悪することを示した。この分子メカニズムとして、マクロファージのコレステロール代謝が関わる可能性を検討する。肝臓、単離マクロファージにおけるコレステロール含量を測定するとともに、偏光顕微鏡やFilipin染色によりコレステロール結晶を同定する。DAP12がコレステロール結晶の貪食に及ぼす影響を検討する。 3.マクロファージのコレステロール代謝変容が肝線維化に及ぼす影響;環状糖のシクロデキストリンは遊離コレステロールを包接し、細胞外に排泄する作用を有する。これを超分子化することで、リソソーム内で特異的にコレステロールと結合する高分子化合物を作製した。これを用いて、NASHの肝線維化形成におけるマクロファージのコレステロール代謝変容の意義を明らかにする。
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