これまでに、肥満や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)における慢性炎症の分子機構として、死細胞を起点とするMincleやDAP12シグナルの検討を行ってきた。本年度は、特に肥満の脂肪組織におけるDAP12の意義に関して検討するとともに、シベリアカラマツ由来のフラボノイド・タキシフォリンが肥満やNASHの慢性炎症に及ぼす影響を検討した。 1)脂肪組織の慢性炎症におけるDAP12の意義に関する検討;DAP12は、Trem2などと会合して細胞内にITAMシグナルを伝える。Trem2 KOでは肥満に伴う脂肪組織炎症の増悪を来すことが報告されているが、予想に反してDAP12 KOは脂肪組織炎症が顕著に軽減した。この分子機序として、マクロファージの脂肪組織への浸潤が抑制されることを見出した。実際、DAP12欠損は、骨髄や末梢血における単球・マクロファージ系への分化に影響を及ぼさず、脂肪組織への浸潤を抑制した。現在、DAP12に会合するどの細胞膜分子が遊走能を担うかについて、検討を続けている。 2)肥満やNASHに対するタキシフォリンの効果に関する検討;2種類の異なるモデル(野生型マウスに対する高脂肪食負荷、遺伝性肥満MC4R KOマウスに対するウェスタンダイエット負荷)で検証したところ、いずれもタキシフォリン投与により脂肪組織炎症やNASH病変が改善した。前者ではタキシフォリン投与により体重減少を認めたが、後者では体重に変化を認めず、全身の体重変化とは独立してタキシフォリンが抗炎症作用を有することが明らかになった。また後者では、肝がん抑制作用も明らかになった。タキシフォリンの体重抑制効果の機序として褐色脂肪細胞の活性化を同定し、褐色脂肪細胞に対する直接、あるいはFGF21を介する間接的な作用が想定された。
|