研究課題
ナルディライジン(NRDC)欠損マウスは、低体温、低インスリン血症、徐脈、低血圧などを呈したが、運動量、酸素消費量は上昇しており寿命短縮は認めなかったことから、野生型マウスとは異なるセットポイントで恒常性、健康を維持しているマウスと考えられた。本研究では、1) 肝細胞特異的NRDC欠損(LKO)マウスが呈した「熱放散増加によるエネルギー消費亢進の表現型」を基盤として、エネルギー代謝におけるNRDCの役割を、2) B細胞特異的欠損マウスが呈した「抗体産生能低下」を基盤として、抗体産生・自己免疫疾患におけるNRDCの役割を明らかにする。1)では肝NRDCノックダウンが代謝改善療法となる可能性を検証する。さらに最新のDegradomics法を用いてペプチダーゼNRDCの基質タンパク質同定を試み、酵素活性欠損変異体NRDCノックインマウスの解析と併せて、NRDCのペプチダーゼ活性の意義を解明する。1)においては、前年度にLKOマウス肝臓で発現上昇する肝細胞由来液性因子Xが、褐色脂肪組織(BAT)の熱産生を誘導している可能性が示されたことから、2021年度にはLKOマウスに因子Xに対するsiRNAを投与し、因子XのノックダウンによりNRDC欠損によるBAT熱産生上昇が部分的に抑制されることを示した。2)においては、B細胞、T細胞特異的NRDC欠損マウスを作製し、それぞれにおける抗体産生能を評価し、B細胞NRDC欠損により抗体産生量が低下し、T細胞NRDC欠損により抗体親和性が低下するという結果が得られた。引き続き、肝細胞NRDCの代謝表現型への影響、にB細胞、T細胞NRDCの獲得免疫における役割を明らかにしていく。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、各論としてはNRDCが関与する 1)エネルギー代謝と代謝性疾患、2)抗体産生と自己免疫疾患において、NRDCがいかなる分子機能を介して恒常性維持に寄与しているかを明らかにすることである。また各論に共通するテーマとして、NRDCのペプチダーゼ活性の役割に着目して研究を進める。当該年度においては、1)2)において概要欄に記載した成果が得られたことから、研究は極めて順調に進展していると考えられる。NRDCのペプチダーゼ活性の生体における役割を明らかにするため、ペプチダーゼ不活性型Nrdcノックインマウス(E>A KIマウス:ホモ接合体)を作製したが、遺伝型背景がpure BL6の場合、周産期で100%死亡することがわかった。そこで、ICR系と戻し交配したところ一定数の成体マウスを得ることに成功したため、今後は同遺伝子背景のマウスを用いて研究を進める。以上から、全体としては「おおむね順調に進展している」とした。
目的1)エネルギー代謝と代謝性疾患におけるNRDCの意義解明: LKOマウス肝臓で発現上昇する肝細胞由来液性因子Xが、BAT熱産生を誘導している可能性が示唆されたため、2021年度には、液性因子Xに対するsiRNAを搭載した脂質ナノ粒子を作製し、LKOマウスに経静脈投与してノックダウンを試みた。その結果、NRDCの肝細胞ノックアウトによる代謝系表現型の一部がレスキューされた。今後は、NRD欠損によって因子Xの発現が亢進する分子機構について、詳細に検討する。目的2)抗体産生と自己免疫疾患におけるNRDCの意義解明:B細胞特異的NRDC欠損マウス、T細胞特異的NRDC欠損マウスの抗体産生能、B細胞、T細胞サブセット分画、二次リンパ組織構造などを引き続き解析するとともに、in vitroのB細胞、T細胞分化系を用い、NRDCがリンパ球分化に果たす役割を検討する。目的3) NRDCのペプチダーゼ活性の役割解明:上記したICR系 E>A KIマウスを用いて、主に代謝系、免疫系の表現型を解析し、ノックアウトマウスとの比較検討を行う。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Molecular Metabolism
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http://www.shiga-med.ac.jp/pharm/index.html