ナルディライジン(NRDC)欠損マウスは、低体温、低インスリン血症、徐脈、低血圧などを呈したが、運動量、酸素消費量は上昇しており寿命短縮は認めなかったことから、野生型マウスとは異なるセットポイントで恒常性、健康を維持しているマウスと考えられた。本研究では、1) 肝細胞特異的NRDC欠損(LKO)マウスが呈した「熱放散増加によるエネルギー消費亢進の表現型」を基盤として、エネルギー代謝におけるNRDCの役割を、2) B細胞特異的欠損マウスが呈した「抗体産生能低下」を基盤として、抗体産生・自己免疫疾患におけるNRDCの役割を明らかにする。1)では肝NRDCノックダウンが代謝改善療法となる可能性を検証する。さらにペプチダーゼNRDCの基質タンパク質同定を試み、酵素活性欠損変異体NRDCノックインマウスの解析と併せて、NRDCのペプチダーゼ活性の意義を解明する。 1)においては、LKOマウス肝臓で発現上昇する肝細胞由来液性因子Xを同定し、因子XをLKOマウス肝臓においてノックダウンすることで、LKOマウスのエネルギー消費亢進が部分的に抑制されることを示した。さらに、肝臓に発現するNRDCの発現が栄養状態によって変動することが明らかとなったことから、NRDCが栄養状態のセンサーとして働き、因子Xを介してエネルギー代謝を制御する可能性が示唆された。 2)においては、B細胞、T細胞特異的NRDC欠損マウスを作製し、それぞれにおける抗体産生能を評価し、B細胞NRDC欠損により抗体産生量が低下し、T細胞NRDC欠損により抗体親和性が低下するという結果が得られた。B、T細胞それぞれに発現するNRDCが、両細胞の連関による獲得免疫機能の維持に重要な役割を果たすことが示唆された。
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