研究課題/領域番号 |
20H03451
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
河岡 慎平 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 特定准教授 (70740009)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | がん / がん悪液質 / マウス遺伝学 / 宿主因子 / マルチオミクス / 代謝 / メタボローム / 肝臓 |
研究実績の概要 |
根治不能となってしまったがんは、宿主個体にさまざまな悪影響をもたらす。たとえば、脂肪や筋肉、体重の減少、食欲の減退、慢性炎症などを具体例として挙げることができる。これらの症状は臨床的にはがん悪液質として知られ、がん患者のQOLや治療効率を低下させるとともに、医療費を増大させるなど、重要なアンメットニーズであるといえる。
現時点はがんに起因する宿主の病態・不調を強力に緩和できる方法は存在しない。病態が多臓器・多因子性であり、どの病態が不調に直結しているのか、どの悪影響を抑制すべきなのかを考えることが難しいことがその一因であると考えられる。
研究代表者は、マウスがんモデルとマルチオミクス解析を活用することで、がんが個体に与える影響をできる限り包括的に理解し、また、各々の影響に関わる宿主側の要因を同定しようとしている。本年度も、この発想に基づく研究を推進した。その結果、がんが、宿主の肝臓にさまざまな代謝異常を引き起こしていることがわかった。たとえば、ウレア回路が抑制されていた。ウレア回路は、タンパク質分解などで生じた有毒なアンモニアを無毒なウレアへと変換して大概に排出するために必須の、極めて需要な代謝回路である。がんをもつ個体の肝臓ではウレア回路を構成する代謝物や遺伝子の発現量が変化しており、また、血液中のウレアの量が減少していた。代表者は、この異常に関わる新しい宿主因子を同定し、また、本因子がウレア回路の異常にどのように関わるのかというメカニズムの一部を明らかにした。本研究については論文のリバイズ版を投稿済みである。また、本年度は、上記宿主因子が関与しない異常並びにそれらの異常に関わる別の宿主因子に関する手がかりを得ることもできた。この戦略によってがん悪液質という複雑な現象を丁寧に切り分けていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、特に肝臓の代謝異常について、新規な宿主因子を同定し、また、論文のリバイズ版を投稿するところまでの進捗を得ることができた。本因子ががんに起因する宿主の不調に関わるという新しい発見をまとめることができつつあるという点で、研究は順調に進んでいると考えている。また、昨年度より注目している本因子以外の宿主因子についても、本因子が関係しない異常に関わることを明らかにしつつある。がんに起因する多臓器の代謝異常を新しい視点から理解するための知見が積み上がっており、この点において、研究がおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本宿主因子が関与する肝臓の異常については、2021年度の論文のリバイズの過程で多くの知見が得られ、本宿主因子がどのように肝臓の異常に関わるのかという問題について一定の理解が得られた。不明な点についても仮説は得られており、2022年度は、初代肝細胞培養などを有効に活用して、本宿主因子が肝臓における代謝 (異常) にどのように関わるのかということを明らかにする。
また、論文化の過程で、本宿主因子が脂肪の代謝異常に興味深い貢献をしていることも明らかとなった。脂肪に関する研究を並行して推進することで、本宿主因子が肝臓・脂肪という二つの代謝臓器の異常にどのように関わっているのか、という問いに答えたいと考えている。
がん悪液質の複雑な実態を勘案し、本宿主因子以外の宿主因子が関わる異常に関する研究も並行して進める予定である。各々の異常を宿主因子ごとに分類・整理することができれば、この複雑な病態に関する理解を深めていけるのではないかと期待している。
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