研究実績の概要 |
がんは宿主の恒常性を破綻させ、最終的には個体を死に至らしめる。代表者は、がんが宿主の細胞や臓器に与える影響の全体を「がんに起因する宿主の病態生理」として捉え、その全体像ならびにメカニズムを明らかにしようとしてきた。本研究の期間内に、がんによるニコチンアミド代謝の変容 (Mizuno et al., Nat.Commun., 2022)、がんに起因する肝臓の空間トランスクリプトームの破綻 (Vandenbon et al., Commun.Biol., 2023)、急性期応答タンパク質ががんによる肝臓の炎症に与える影響の解明 (He et al., Front. Immunol., 2023)、ニコチンアミドメチル基転移酵素NNMTによる脂質代謝制御メカニズム (Yoda et al., J. Biochem., 2023) などを明らかにしてきた。当該申請年度はヒト検体に対する研究を推進し、成果の一部をプレプリントして発表するとともに、がんに起因する宿主病態生理に関する研究をまとめた総説を発表した (Nakamura et al., Cancer Sci., 2024)。また、これらの成果を羊土社「実験医学」に特集する機会を得て、「がんと全身性代謝変容」という特集を発表した。がんに起因する宿主の病態生理は臨床ではがん悪液質という言葉で理解されている。がん悪液質の診断には主に体重の減少が用いられているが、代表者らをはじめとするいくつかのグループの研究から、体重の減少が生じる前にさまざまな代謝変容・免疫変容が起こることがわかってきた。それらの知見を日英の両方でまとめることにより、本分野の発展に少なからず貢献することができたのではないかと考えている。
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