研究課題/領域番号 |
20H03454
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
柳 茂 学習院大学, 理学部, 教授 (60252003)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / パーキンソン病 |
研究実績の概要 |
ミトコンドリアの機能低下は、パーキンソン病などの神経変性疾患をはじめとする様々な疾患の原因になることが明らかとなっている。正常な細胞は、損傷や老化により機能が低下したミトコンドリアをマイトファジーと呼ばれる選択的な除去するシステムを用いて細胞を保護している。パーキンソン病原因遺伝子産物として知られているParkinは、マイトファジーの調節に重要な役割を果たしており、Parkinの機能欠失によって機能低下した不良ミトコンドリアが蓄積し、パーキンソン病の発症につながると考えられている。一方、マイトファジーの進行途中でParkinが細胞死を誘導することや孤発性パーキンソン病患者脳においてParkinが蓄積していることが報告されている。今回、私たちは、ミトコンドリアユビキチンリガーゼMITOLがパーキンソン病原因遺伝子産物Parkinをミトコンドリア外膜上において特異的にユビキチン化して分解を誘導することを見出した。MITOLの機能が低下した場合、マイトファジーの際にParkinが小胞体上でFKBP38を分解し細胞死を引き起こすことを明らかにしました。一方で、MITOLが正常に機能している場合は、Parkin により機能低下したミトコンドリアの除去を妨げないよう、MITOLがParkinを分解しFKBP38を保護していることを見出した。この知見により、現在パーキンソン病の病態メカニズムの一部として世界中で支持される「損傷ミトコンドリアの蓄積による病態発症モデル」に加え、新たに「パーキンソン病原因遺伝子産物Parkinの過剰蓄積による病態発症モデル」を提唱した(Shiiba et al., EMBO Rep 2021)。孤発性パーキンソン病患者脳において、パーキンの過剰活性化の可能性が報告されているので、孤発性パーキンソン病に対してMITOLを標的とした新たな治療戦略が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
私たちはこれまで一貫してミトコンドリアユビキチンリガーゼMITOLの生理機能について解析を行ってきた。今回、APEX2法を用いてMITOLと相互作用する分子群を網羅的に解析した結果、多くの新たな基質の同定の成功に至っている。今後、これらの分子群のユビキチン化による調節機構並びに生理機能を解析することによって研究の進展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
アスコルビン酸ペルオキシダーゼを改変したAPEX2による近位依存性ビオチン標識法を用いて、MITOLの新規基質候補を網羅的に探索した結果、小胞体とミトコンドリア間(MAM)の脂質輸送や脂質代謝に関与する複数の新規基質を同定した。これらの分子の機能解析を行った結果、MAMにおけるリン脂質輸送がユビキチンシグナルによって制御されることが示唆された。今後、 APEX2 法により同定された様々な基質の役割を通して、ミトコンドリア膜上のユビキチンを介した多様な生理機能を解析していく予定である。
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