研究実績の概要 |
Ppy遺伝子によってコードされるpancreatic polypeptide (PP)を分泌するPP細胞は、膵ラ氏島を構成する少数の細胞であるが、その特徴については不明点が多い。我々はPpy-CreノックインマウスとPP特異的モノクローナル抗体を独自に開発することにより、Ppy発現細胞とβ細胞との関係を調査した。まず細胞系譜追跡実験により、Ppy発現細胞は、β細胞を含む4つの主要な内分泌細胞に寄与することが明らかになった。一方、野生型マウス膵島細胞の単一細胞RNA解析により、PP細胞の遺伝子プロファイルが明らかになり、Ppy, Pyy, TSPAN8, Folr1等がPP細胞のID geneとして同定された。 また、単一細胞RNA解析によりβ細胞は7つのクラスターで構成されることが明らかになったが、β細胞は2つの系統、すなわち、Ppyを発現した経歴のあるβ細胞および、発現したことのない非Ppy系列のβ細胞に二分されることが示された。Ppy系列β細胞は、その膵島における位置、機能性および遺伝子発現プロファイルに関して明瞭な特徴を示した。すなわち、Ppy系列のβ細胞は、膵島の周辺部に位置し、グルコース応答性のCa2+反応が低く、その遺伝子発現プロファイルは、PP細胞のそれに近いこと、INSのみならず、Ppy, Gcg, Somを発現するmultihormonalでGLUT2やUCN3などのβ細胞としての成熟マーカーの発現が低いことが明らかとなった。 さらにSTZ障害性の糖尿病やジフテリア毒素誘導性の糖尿病モデルにおいては、時間経過とともに、Ppy系列のβ細胞がdominantになることから、糖尿病状態におけるβ細胞障害に抵抗性を示すことが示唆された。膵島のinjury発生時には、グルコース応答性のインスリン分泌をある程度犠牲にして、β細胞を生き残らせるための仕組みが備わっているのかもしれない。
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