研究課題
胸腺ではTCRがVDJ組換えにより1兆種類以上ものレパトアが出来上がる。この際に、自己反応性T細胞が出来がってしまうので、自己反応性T細胞の多くは負の選択により除去される。しかしながら、これまで負の選択機能の分子メカニズムはよくわかってない。これまで転写制御因子AIREが末梢抗原組織の一部を発現誘導することで、負の選択に関わることが示唆されてきた。申請者は末梢組織自己抗原を異所的に発現される転写因子Fezf2やクロマチン制御因子Chd4を同定した。これらの転写制御分子によって、末梢組織へT細胞が移行する前に、自己応答性T細胞は除去される。興味深いことに、胸腺上皮細胞は一細胞レベルでみると異なる種類の自己抗原を出すことで、全体として多種多様な抗原を発現し、抗原提示していることが明らかとなった(Nature Immunology, 2020)。一方、近年自己反応性T細胞の一部は除去されず転写因子Foxp3を発現し、制御性T細胞へ分化することが明らかとなった。この制御性T細胞は末梢組織へ移行すると自己免疫寛容の維持や組織恒常性の維持をしていることが明らかとなった。さらに、申請者の研究により、胸腺内で制御性T細胞はヘテロな集団と出来上がることが示唆された。今後、制御性T細胞の亜集団の機能ごとの棲み分けを明らかにすることで、免疫寛容や組織恒常性を維持する分子基盤を明らかにする。また、末梢組織での制御性T細胞の機能がどのような抗原を認識し、機能が担保されているかをTCRレパトアを解析し、TCRトランスジェニックマウスを活用することでT細胞の選択機構や制御性T細胞の分化機序、そして末梢でのT細胞の機能を理解して紐づけ出来るようなプラットホームを整える。
1: 当初の計画以上に進展している
胸腺内での末梢組織自己抗原発現のメカニズムについては大きな進展が見られた。これは共同研究者らによる単一細胞レベルでのRNA-seq解析やATAC-seq解析が飛躍的に進み、予想外の分子メカニズムが明らかになった(Nature Immunology, 2020)。一方で、胸腺内での選別機構にはTCRトランスジェニックマウスの掛け合わせやバッククロスが必要であり、時間がかかった。しかし、目的としているマウスは得られてきたので、今年から来年にかけて結果が得られる予定である。
胸腺内で出来上がる制御性T細胞を中心に、単一RNA-seq解析を活用することで、制御性T細胞の集団をサブセットとして分ける。そして、それぞれのサブセットごとのマーカー遺伝子を上げることで、その遺伝子セットをもつ制御性T細胞が末梢でどのような機能をもつかを遺伝子欠損マウスやFateマップマウスを用いることで明らかにする。遺伝子欠損マウスで表現型が見えにくい場合は、腫瘍モデルや自己免疫疾患モデルを誘導することで差が見えないかどうかを解析を行う。胸腺内での制御性T細胞の亜集団と末梢組織での制御性T細胞を抗原やTCRレパトアで紐づけをする。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Nature immunology
巻: 8 ページ: 892-901
10.1038/s41590-020-0717-2