研究課題
2型自己免疫性肝炎(AIH)は主に子供が発症して重症なケースが認められる自己免疫性の肝臓疾患である。抗原提示における小胞輸送の重要性やTLR3がRab7aと会合していることから、樹状細胞特異的にRab7aを欠損させて小胞輸送を停滞させたらvivoの免疫反応はどうなるのかを検討するために我々は樹状細胞特異的にRab7aを欠損させるマウスを作製した。するとマウスは2型AIHを発症して死亡した。これは1遺伝子欠損による2型AIH発症の初めてのモデルマウスである。我々はこの1年研究を行い、リンパ節においてはtype1樹状細胞とtype 2樹状細胞のいずれも浸潤が顕著に起こること、そして濾胞性ヘルパーT細胞が著しく増強して、B細胞の抗体産生に関わっていることを明らかにした。さらに肝臓においてはCD8陽性のtype1樹状細胞が顕著に浸潤していること、type2樹状細胞に関してはtype1樹状細胞を上回る細胞が浸潤していることを明らかにした。そして肝臓でCD8T細胞が強く活性化しており細胞傷害性T細胞に分化していることを解明した。肝臓の樹状細胞においてはCD8T細胞への抗原提示に関わる組織適合性抗原複合体(MHC) class Iの発現が増強しており、MHC class Iの分解が遅れることでMHC class Iの発現が増強して、クロスプレゼンテーションが亢進しCD8T細胞を強く活性化することを解明した。これらのことからTCRベータ欠損(T細胞欠損)マウスと樹状細胞特異的Rab7a欠損マウスを交配し、2型AIH発症におけるT細胞の関与を検討した。その結果T細胞依存的に2型AIHが発症することが明らかとなった。加えて、このT細胞欠損マウスにおいても肝臓の異常は認められたため詳細に観察すると、このマウスは2型AIHとともに原発性胆汁性胆管炎を発症していることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要に示すように我々は2型自己免疫性肝炎(AIH)と原発性胆汁性胆管炎(PBC)のオーバーラップ症候群の自然発症モデルマウスを世界で初めて作成した。そして2型AIHは樹状細胞におけるRab7aの遺伝子欠損により、小胞輸送が停滞することで組織適合性抗原複合体(MHC)の分解が顕著に遅れ、MHCの細胞表面発現量が増強し、抗原提示が亢進することを解明した。その結果T細胞を顕著に活性化させ、異常に活性化したT細胞が2型AIH発症に関与することを証明した。論文は投稿したが、抗原提示の増強に関して重要な発見があり、詳細に細胞生物学的な解析をしてから再投稿する予定である。さらにTLR3の2型自己免疫性肝炎発症における影響を検討する為、TLR3欠損マウスとこのモデルマウスとの交配を進めた。結果としてマウスに肝臓の異常が残り、発症におけるTLR3の部分的な関与は認められた。この部分的な関与は2型AIHまたは原発性胆汁性胆管炎のどちらに対するものなのかを今後詳細に検討する予定である。さらにこのモデルマウスの樹状細胞で発現が増強しているTLR2とTLR7に関してはそれぞれの欠損マウスとこのモデルマウスを交配して、本年度解析予定である。さらに発症におけるB細胞の関与を明らかにするため、Ighm遺伝子欠損マウス(B細胞欠損マウス)と交配し、本年度解析予定である。CD8T細胞へのクロスプレゼンテーションの増強の発症への関与を解明する為、クロスプレゼンテーションに関与すると報告されているCD8陽性type1樹状細胞への分化に関わるBATF3欠損マウスとの交配を始める。今後MHC class I欠損マウス、CD8欠損マウスとの交配、IRF4欠損マウスとの交配と解析を通じて2型AIHとPBCの発症機構を解明する。動物センターのスペース上優先順位をつけながら研究を進めるため交配は少し遅れている。
今までの研究結果から2型自己免疫性肝炎(AIH)の発症にはαβT細胞が重要な役割を果たしていることが明らかになった。次に樹状細胞の抗原提示の活性化に関与するTLRを検討する。Rab7aにはTLR3が会合している為、TLR3欠損マウスと樹状細胞特異的Rab7a欠損マウス(肝炎・胆管炎モデルマウス)を交配したところ、生存率が改善した。この結果からTLR3は2型AIHまたは原発性胆汁性胆管炎(PBC)の発症に関わっているのかを次に検討する。さらに肝炎・胆管炎モデルマウスの肝臓に浸潤している樹状細胞の中でCD80の発現が増強しているのはtype 2樹状細胞であり、type1樹状細胞には増強が認められなかったことから、type2の樹状細胞で発現が増強しているTLR2とTLR7に注目してそれぞれの欠損マウスと肝炎・胆管炎モデルマウスを交配し、どちらのTLRが病気の発症に関与するのかを検討する。そして、2型AIHとPBCの発症にはtype1樹状細胞が関与しているのか、type 2樹状細胞が関与しているのかを検討する為、クロスプレゼンテーションの機能を担っているCD8陽性type1樹状細胞の分化に関わるBATF3欠損マウスと交配することに加えて、type 2樹状細胞への分化に関与しているIRF4遺伝子の欠損マウスと交配し、2型AIHとPBCの発症を検討する。更に2型AIHとPBCは、それぞれ自己抗体として抗LKM-1抗体または抗ミトコンドリアM2抗体が高濃度で検出される。その為抗体を産生するB細胞の発症への関りをIghm遺伝子欠損マウス(B細胞欠損マウス)と肝炎・胆管炎モデルマウスを交配し、2型AIHとPBCの発症を検討する。加えて今までの解析から肝炎・胆管炎モデルマウスの肝臓においてγδT細胞が数多く存在し活性化も強く認められることから、TCRδ欠損マウスと交配しPBCの発症を検討する。
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International Immunology
巻: 32 ページ: 785-798
10.1093/intimm/dxaa055.
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/kanseniden/
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/publication/annualreport/list.html