研究課題
膵がんにおいて、がん関連線維芽細胞(Cancer-associated fibroblasts; CAF)を枯渇させたり、あるいはその増殖を抑制することによる治療の試みは、マウスや患者において成功しなかった。その原因の1つに、CAFには腫瘍抑制的CAFと腫瘍促進的CAF(それぞれrCAFとpCAF)という機能が異なるCAFが存在している可能性が考えらえている。今回我々は、遺伝的および薬理学的アプローチにより、rCAF特異的マーカーであるグリコシルホスファチジルイノシトールアンカー型細胞表面タンパク質MeflinをCAFに発現誘導すると、マウス膵がんの化学療法感受性が改善することを示した。まず、ケミカルライブラリーのスクリーニングにより、合成非天然型レチノイドであるAm80が、CAFにおけるMeflinの発現を効果的に誘導することができる試薬であることを明らかにした。膵がんモデルマウスへのAm80の投与により、CAFにおけるMeflinの発現が増強するとともに、腫瘍血管面積の増加や腫瘍内薬物送達の増加を見られ、化学療法に対する膵がんの感受性が改善された。メカニズム的には、Meflinはリシルオキシダーゼと相互作用してそのコラーゲン架橋活性を阻害することにより、腫瘍微小環境における組織硬化の抑制に関与していた。これらのデータは、CAFのheterogeneityを調節することが膵がん治療の戦略になることを示唆した。
2: おおむね順調に進展している
本研究により、1)合成非天然型レチノイドであるAm80が、CAFにおけるMeflinの発現を効果的に誘導することができる試薬であること、2)Am80の投与により、腫瘍血管面積の増加や腫瘍内薬物送達の増加を見られ、化学療法に対する膵がんの感受性が改善されたこと、3)CAFにおいて発現が増加したMeflinがリシルオキシダーゼのコラーゲン架橋活性を阻害することにより、組織硬化の抑制に関与していることを明らかにし、ヒト膵がん治療におけるAm80と化学療法の併用による予後の改善の可能性を示すことができた。
マウスを用いたAm80と化学療法の併用療法の成果に基づき、今後、ヒト膵がん患者への応用(phase 1 study)を立案し、臨床研究を進める。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (1件)
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