研究課題
IL-26は近年、多様な慢性炎症疾患で発現増加が報告されている新規炎症性サイトカインだが、マウスには欠損した遺伝子であり、従来のマウス疾患モデルでは見逃されていたヒト炎症病態特有のKey因子である。本研究では慢性炎症病態におけるIL-26の機能を多臓器横断的に解明し、予後や生活の質(QOL)の十分な改善に至っていない乾癬や炎症性腸疾患、全身性強皮症などの免疫難病に加え、肺障害を合併した関節リウマチや慢性閉塞性肺疾患などに対する、安全で有効な抗炎症療法を開発するための基盤研究を行う。IL-26はこれまでに主にCD4 T細胞が産生すると報告されていたが、英Oxford大学との国際共同研究により、腸管にはIL-26を産生する特殊なCD8 T細胞サブセットが存在し、潰瘍性大腸炎患者では大腸炎症部位にそのIL-26産生CD8 T細胞が顕著に増加していることを明らかにした。IL-26はマウスには欠損した遺伝子であるため、ヒトIL-26の発現が炎症条件下で誘導されるヒトIL-26バクテリア人工染色体トランスジェニック(hIL-26Tg)マウスを用いて、低濃度のデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を継続的に飲ませる慢性大腸炎モデル、ならびにDSSを飲ませる期間と水を飲ませる期間を交互に繰り返す慢性大腸炎モデルを樹立し、IL-26の大腸炎における役割を検討中である。また、hIL-26Tgマウスを用いたマウスアロ移植片対宿主病(GVHD)モデル、ならびに、ヒト臍帯血単核球を免疫不全マウスに移植する異種慢性GVHDモデルを用いて、慢性炎症病態におけるIL-26の役割についても解析を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
英Oxford大学との国際共同研究で、大腸に存在するCD8 T細胞をシングルセルRNAシークエンスで解析した結果、14もの複雑なサブセットで構成されており、その中にIL-26を産生するCD8 T細胞サブセットが存在することを見出した。さらにこのIL-26産生CD8 T細胞は、健常者と比較して潰瘍性大腸炎患者の大腸炎症部位で顕著に増加していることを明らかにした。hIL-26Tgマウスを用いたDSS誘発性慢性大腸炎モデルを樹立して、IL-26の大腸炎における役割を検討中だが、予備検討の結果、IL-26は慢性大腸炎を悪化させること、さらに、腸内細菌叢の構成にも大きく影響することを見出した。また、hIL-26Tgマウスを用いたマウスアロGVHDモデルを樹立し、hIL-26Tgマウスの骨髄と脾臓T細胞を移植したレシピエントマウスでは、IL-26を産生しないコントロールマウスの骨髄と脾臓T細胞を移植した場合と比較して、GVHDが重症化し、生存日数や体重減少でも顕著な差が見られること、肝臓・大腸・肺の炎症スコアが病理学的にも悪化していること、特定の炎症性サイトカイン/ケモカインが増加すること、炎症部位に浸潤するT細胞の性質や免疫細胞組成は変化することを見出した。このことから、IL-26は様々な慢性炎症疾患の病態に関与していることが強く示唆される。IL-26への結合活性ならびに中和活性が元となるマウス型抗体よりも優れたヒト化抗IL-26抗体の開発にも成功し、炎症病態におけるIL-26の役割の更なる解明と、IL-26を分子標的とした革新的治療法の開発を目指す。
hIL-26Tgマウスを用いたDSS誘発性慢性大腸炎モデルにおいて、大腸炎誘発前の定常状態と大腸炎誘発後の糞をそれぞれ回収し、糞中の16S rDNA解析を行うことで、腸内細菌叢の違いと大腸炎にともなう変化を解析し、大腸炎との関係を明らかにする。簡便かつ安定した関節炎誘発モデルとして、ArthritoMab抗体カクテルを投与するモデルを樹立中であり、hIL-26Tgマウスとコントロールマウスとで関節炎症状に差が見られる最適条件を決定し、関節炎・肺障害の病態におけるIL-26の役割を詳細に解明する。各種炎症性疾患モデルにおいて、ヒト化抗IL-26抗体の治療効果のデータを取得するとともに、生体内でのIL-26の機能・作用メカニズムをより詳細に解明することを目指して、IL-26の新規レセプターの同定に関しても引き続き取り組む。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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