研究課題/領域番号 |
20H03471
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
森本 幾夫 順天堂大学, 大学院医学研究科, 特任教授 (30119028)
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研究分担者 |
大沼 圭 順天堂大学, 大学院医学研究科, 非常勤講師 (10396872)
波多野 良 順天堂大学, 大学院医学研究科, 特任助教 (30638789)
岩田 哲史 順天堂大学, 大学院医学研究科, 非常勤講師 (00396871)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | IL-26 / 慢性炎症 / IL-26中和抗体 / 炎症性腸疾患 / 移植片対宿主病 / 関節炎 |
研究実績の概要 |
IL-26は近年、様々な慢性炎症疾患で発現増加が報告されている新規炎症性サイトカインだが、マウスには欠損した遺伝子であり、従来のマウス疾患モデルでは見逃されていたヒト炎症病態特有のKey因子である。本研究では慢性炎症病態におけるIL-26の機能を多臓器横断的に解明し、予後や生活の質(QOL)の十分な改善に至っていない乾癬や炎症性腸疾患、全身性強皮症などの免疫難病に加え、肺障害を合併した関節リウマチや慢性閉塞性肺疾患などに対する、安全で有効な抗炎症療法を開発するための基盤研究を行う。 これまでにヒトIL-26バクテリア人工染色体トランスジェニック(hIL-26Tg)マウスを用いて、イミキモド誘発性乾癬様モデルやデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発性大腸炎モデルなど局所の急性炎症(5-6日間)におけるIL-26の機能解析を行ってきたが、全身性の慢性炎症におけるIL-26の役割は不明であった。そこで、hIL-26TgマウスとB10.BRマウス間の同種移植片対宿主病(GVHD)モデルならびにヒト臍帯血単核球をNOGマウスに移植する異種慢性GVHDモデルを用いて、IL-26の免疫学的役割の解明を試みた。その結果、IL-26はCD4 T細胞のTh17分化偏向を促進するとともに、単球/マクロファージや線維芽細胞からのG-CSFの発現を顕著に亢進し、炎症局所だけでなく全身性の好中球数の増加に関与していることを明らかにした。 hIL-26Tgマウスを用いた大腸炎モデルや関節炎モデルにおけるIL-26の機能解析、ならびにIL-26の新規受容体の同定についても現在、解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
hIL-26Tgマウスの骨髄と脾臓T細胞を移植したレシピエントマウスでは、IL-26を産生しないコントロールマウスの骨髄と脾臓T細胞を移植した場合と比較して、GVHDが重症化し、生存日数や体重減少でも顕著な差が見られること、肝臓・大腸・肺の炎症スコアが病理学的にも悪化していること、血清中ならびに炎症臓器でIL-1α・IL-1β・IL-6・G-CSF・RANTESの発現が顕著に増加していること、炎症部位に浸潤するCD8 T細胞の細胞傷害活性には影響しない反面、CD4 T細胞をTh17細胞に偏向させること、また、炎症臓器だけでなく全身での好中球数を異常に増加させることを見出した。IL-26産生がより高いレベルで誘導されるヒトT細胞を用いた異種GVHDモデルでは、マウス同種GVHDモデルで見られたIL-26の作用に加え、IL-26が炎症臓器へのドナーT細胞浸潤を促進すること、肺や肝臓の膠原線維増生を促進することを明らかにした。これまでの急性炎症モデルの結果からもIL-26がIL-1βとIL-6の発現増強に関わっていることが示唆されていたが、今回の結果からより長期間IL-26が作用する慢性炎症モデルではIL-26がTh17細胞への分化促進と好中球数増加を引き起こすことが示された。 hIL-26Tgマウスを用いたDSS誘発性慢性大腸炎モデル・コラーゲン誘発性関節炎モデルを樹立して、各種炎症性疾患モデルにおけるIL-26の役割を検討中だが、それらのモデルでもIL-26が炎症局所での好中球浸潤を顕著に増加させること、さらに、腸内細菌叢の構成にも大きく影響する予備データを得ている。
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今後の研究の推進方策 |
hIL-26Tgマウスを用いたDSS誘発性慢性大腸炎モデルにおいて、大腸炎誘発前の定常状態と大腸炎誘発後の糞をそれぞれ回収し、糞中の16S rDNA解析を行うことで、腸内細菌叢の違いと大腸炎にともなう変化を解析したが、それらの腸内細菌叢の変化やその代謝産物が腸管免疫に及ぼす影響、大腸炎との関係について今後明らかにする。 コラーゲン誘発性関節炎モデルならびに抗コラーゲン抗体誘発性関節炎モデルを用いて、hIL-26Tgマウスとコントロールマウスとで関節炎症状に差が見られる最適条件を決定した。IL-26は炎症部位への好中球浸潤促進に深く関わっている可能性が考えられ、今後は浸潤した好中球の数だけでなく、エフェクター機能・サブタイプに関しても詳細に解析を行う予定である。 生体内でのIL-26の機能・作用メカニズムをより詳細に解明することを目指して、IL-26の新規レセプターの同定に取り組んでおり、条件検討は順調に進んでいる。質量分析により新規レセプター候補の絞り込みを行い、候補分子に対するブロッキング抗体やノックダウンによりIL-26の作用が阻害されるかを検討して、レセプター同定に繋げる。以上の研究を進めることで、炎症病態におけるIL-26の役割の更なる解明と、IL-26を分子標的とした革新的治療法の開発を目指す。
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