マラリア原虫は赤血球表面抗原をコードする多重遺伝子族を持ち、その発現を制御することで免疫を回避する。これらの多重遺伝子族はヘテロクロマチン化し、 エピジェネティックに発現が抑制されている。一方、申請者は研究の過程で偶然に転写因子であるAP2-HCが全ての多重遺伝子族を標的遺伝子とすることを見出し た。更に驚くことに性分化を誘導する転写因子AP2-Gも標的遺伝子であることを発見した。AP2-Gは多重遺伝子族と同様にヘテロクロマチンによるエピジェネ ティックな発現抑制を受けていることから、この発見は多重遺伝子族の発現制御と性分化の制御に共通の分子基盤があるということを強く示唆した。本研究では AP2-HCのシス配列や相互作用分子を同定し、如何にして特異的なヘテロクロマチンが形成されるか明らかとすることを目的とする。本年度はAP2-HCと相互作用する分子を同定し、AP2-HCの役割を検討する。具体的にはAP2-HCにビオチン化酵素を融合した組換え原虫を作製し、LC-MSMS解析を行なって、分子の同定を試みた。その結果、ヒストンメチル化酵素SET1とSET1と複合体を形成するSWD1を同定した。さらにAP2-HCがTGTGTG配列特異的にこれらの分子をヘテロクロマチン領域近傍にリクルートすることを示唆した。SET1およびSWD1はヘテロクロマチン近傍のテロメア機能維持、並びにヘテロクロマチン領域の拡大阻止に関与することが知られており、AP2-HCは配列依存的にこれらの分子をリクルートし、テロメア、ヘテロクロマチンの機能維持に関与することが示唆された。
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