研究課題
マラリアの治療には感染ステージによっていくつか治療薬剤(抗マラリア薬)が存在し、その有効性が示されている。一般的に、高マラリア薬にはマラリア原虫を直接殺滅する作用があり、その作用がマラリ ア治療に有効であると考えられている。一方、我々は従来の研究から、マウスマラリア赤内期における抗マラリア薬の作用機序(抗マラリア治療効果)には宿主免疫機構が関与している可能性を考えている。本研究では、我々の知見に基づき「抗マラリア薬の生体内での作用機序における宿主免疫系の役割」について検証する。また、「生体内での抗マラリア薬耐性原虫の出現機序とその薬剤耐性機構」についても検証する。本年度は本研究を立案する上で重要な知見を提供する遺伝子改変マウスコロニーが一時的に縮小したため、十分に研究を実施することができなかった。そこで、従来の結果を再検証するとともに、次の段階の研究内容について考察した。1)T細胞やB細胞などの適応免疫系細胞を欠くRag2遺伝子欠損マウスでは非致死性P. yoelii(PyXNL)赤内期感染に対するクロロキン投与により原虫血症の低下が認められる。しかし、クロロキン投与を中止すると原虫血症が再顕在化する。2)B細胞を欠くmu-MTマウスでもRag2欠損マウスと同様にPyXNL赤内期感染に対しクロロキンによるparasitemia低下が認められるが、クロロキン投与を中止すると再び原虫血症が出現する。3)抗体を欠くマウスではPyXNL赤内期感染に対するクロロキン投与は全く効果を示さない(ほとんどparasitemiaが低下しない)。以上の結果から、生体内でクロロキン投与によって赤内期原虫を完全に排除するためには抗体が存在する必要があること、一方で、生体内でのB細胞の存在はクロロキンの薬理作用に対し負の影響を与える可能性があることが示唆された。
4: 遅れている
研究を実施する上で重要な位置付けの遺伝子改変マウスコロニーが回復しこのマウスを用いた研究を実施することはできた。一方、このマウスを用いて得た知見に基づいた次の段階の研究については、想定した結果が得られず作業仮説の再設定が必要か否かを検討している。
本研究では抗マラリア薬の生体内での作用機序を解明を目指している。本研究の作業仮説である「抗マラリア薬の作用機序(効果発現)には宿主免疫機構が必須ではないか」を検証する上で、免疫系に関連する遺伝子を欠損するマウスを用いた解析が必須である。前年度までの遅れ及び想定通りの結果が必ずしも得られていないため、研究期間内で各種遺伝子欠損マウスを準備し研究を行うことが難しい状況である。一方、本研究の到達目標は抗マラリア薬の統合的薬剤作用機序に関与している宿主免疫機構の細胞や分子の同定を行うことであり、その成果はマラリア治療についての新たな側面からの理解につながると確信している。また、関与する細胞や分子を人為的に賦活化させる方法と抗マラリア薬を組み合わせることでより強力な抗マラリア活性を迅速に発揮できる治療法が創出できる可能性があるため、引き続き本研究を実施していく。残された時間は多くないが、最終年度の研究に関しては、研究の進め方やアプローチの方法に加え作業仮説自体を再検討する必要がある。
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