ワクチンや薬剤開発には、マラリア原虫-宿主分子間相互作用の理解が必須である。本研究では、マラリア病害の主戦場である赤血球期に焦点を絞り、原虫と赤血球のタンパク質-タンパク質相互作用(PPI)を測定する。これにより、マラリア原虫と赤血球のタンパク質インタラクトームを明らかにし、マラリア原虫メロゾイトの赤血球侵入や、侵入後の原虫の赤血球内での寄生維持の分子機構を解明することを目的に実施した。 昨年度までに赤血球膜タンパク質273種類を合成し、既知のメロゾイトリガンドであるEBLを用いて、AlphaScreenで赤血球膜タンパク質とのPPIを総当たりで測定した。その結果EBLの赤血球レセプターがBasiginであることを発見した。さらに、同定されたPPIの解析に必須な新技術としてAGIAタグの開発に成功し、マラリア研究で最も難易度の高い免疫電子顕微鏡法においても機能することを実証した。 今年度は、赤血球期マラリア原虫タンパク質アレイの中で優先的に解析すべきマラリア原虫の宿主感染関連タンパク質の同定に注力した。その結果、マラリア感染赤血球の血管内皮細胞表面への接着と密接に関連している多型表面抗原を同定した。さらに、マラリア原虫と赤血球のPPIを阻害できれば新規のマラリアワクチン開発に進むことができると考えた。そこで手始めに、赤血球表面のレセプターに結合するメロゾイトの侵入関連タンパク質PfRipr5の高純度標品を前臨床品質で合成することに成功した。さらに、それをヒトに使用可能な3種類のアジュバントを用いてPfRIpr5との適合性を詳細に検証し、新規マラリアワクチン開発に進めうるアジュバントを1種類同定することに成功した。 以上より、マラリア原虫と赤血球の間のPPIを解析することにより、これまで難渋していた新規マラリアワクチン開発への道が開けることが明らかとなった。
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