研究課題/領域番号 |
20H03486
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
小椋 義俊 久留米大学, 医学部, 教授 (40363585)
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研究分担者 |
小林 郁雄 宮崎大学, 農学部, 准教授 (20576293)
梶谷 嶺 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (40756706)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 腸管出血性大腸菌 / 志賀毒素 / ゲノム / 進化 / 病原性 |
研究実績の概要 |
腸管出血性大腸菌は、志賀毒素(shiga toxin: Stx)と3型分泌装置を主な病原因子として保持しており、それぞれStxファージとLEE領域(可動性遺伝因子)にコードされている。さらに、ファージやプラスミド上に多数の病原因子が同定されている。我々は、ウシ常在大腸菌には、StxやLEEと共に多数の病原因子が蓄積していることを見出しており、それらの病原因子が強調して働くことでウシ腸内での生存に役立っている可能性が考えられ、結果としてヒトへの病原性を進化させていることが示唆された。これまでは既知の病原因子にのみ着目していたため、今回、Stx陽性株やLEE陽性株に蓄積する遺伝子を網羅的に同定した。 Stx陽性株とLEE陽性株に特異的な遺伝子として、それぞれ342遺伝子と334遺伝子が抽出された。そのほとんどがファージやプラスミドにコードされた外来性遺伝子であり、StxやLEEと協調して機能することでウシ腸内での生存だけでなく、ヒトへの病原性にも関与する遺伝子が含まれると考えられる。特に、LEE陽性株特異的遺伝子の中には、ファージのCago遺伝子(揺りかご遺伝子)と考えられる遺伝子が多数存在し、そのうちの12遺伝子は機能未知であった。Cago遺伝子は、Moron遺伝子とも呼ばれるが、ファージが宿主から獲得した遺伝子でファージ機能には無関係な遺伝子である。腸管出血性大腸菌では、Stxや3型装置のエフェクターなど既知病原因子のほとんどがファージのCago遺伝子として獲得されている。LEE陽性株に特異的な12個の機能未知Cago遺伝子の1つについては、最近の論文報告があり、培養細胞やマウスを用いた感染実験により、炎症反応の抑制に機能することが示されている。今後、これら12個の遺伝子を中心に、StxやLEE陽性株に特異的な遺伝子の解析を進めていくことで、腸管出血性大腸菌の出現様式の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Stx陽性株とLEE陽性株に蓄積する遺伝子の網羅的な同定のために、これまでにシーケンス済みの574株のウシ常在大腸菌を用いてパンゲノムワイド関連解析(Pan-genome-wide association study:Pan-GWAS)を行った。Stxに関連のある遺伝子の抽出では、95株のStx陽性/LEE陰性株と141株のStx陰性/LEE陰性株を対象として、統計的有意性を示す342遺伝子が同定された。そのうち、121遺伝子が機能未知であった。機能既知遺伝子の多くは、ファージやプラスミドの機能遺伝子であったが、既知病原因子としてエンテロへモリジンとserine protease EspPが含まれていた。 LEE領域と関連する遺伝子の抽出では、48株のStx陰性/LEE陽性株と141株のStx陰性/LEE陰性株を対象として、334遺伝子が同定された。そのうちの97遺伝子が機能未知であった。機能既知遺伝子の中には、線毛合成系、エンテロへモリジン、Ecfオペロン(LPS修飾系)、Pchレギュレーター(T3SSの転写制御因子)、3型分泌装置関連遺伝子群などの病原性関連遺伝子に加えて、ファージやプラスミドの機能遺伝子が多数存在した。機能未知遺伝子の多くはファージ上に存在していたが、ファージゲノム上の位置などからCago遺伝子と推定されるものが12遺伝子存在した。そのうちの1つは、LpxRとして最近機能解析が行われており、lipid Aの修飾を行うことで宿主の炎症反応を抑制することが明らかにされている(Ogawa et al, Cellular Microbiology, 2018)。その他の遺伝子についても、病原性に関わる遺伝子が存在する可能性が考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、同定したStx陽性株とLEE陽性株に特異的に蓄積している遺伝子群の解析を行う。特に、LEE陽性株に特異的な機能未知遺伝子の中には、新規のエフェクターが存在する可能性があるため、LEE領域と同じ制御を受けていることを確認すると共に、LEE領域の3型分泌装置により分泌されるかどうかを確認する。 また、病原因子を保持することが大腸菌のウシ腸内での生存に役立っているかどうかを調べるため、10頭のウシについて、出生時から定期的に糞便を採材し、大腸菌を分離してゲノム解析することで、病原因子の保有とウシ腸内でのポピュレーション変化の関係を解析する予定である。
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