研究課題/領域番号 |
20H03488
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
横田 伸一 札幌医科大学, 医学部, 教授 (10325863)
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研究分担者 |
小笠原 徳子 札幌医科大学, 医学部, 講師 (00438061)
山本 聡 札幌医科大学, 医学部, 助教 (10588479)
佐藤 豊孝 札幌医科大学, 医学部, 講師 (30756474)
白石 宗 札幌医科大学, 医学部, 助教 (70725168)
永島 裕之 札幌医科大学, 医学部, 研究員 (90592840)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 病原体関連分子パターン / Toll様受容体 / 自然免疫 / マクロライド系抗菌薬 / 炎症性サイトカイン |
研究実績の概要 |
グラム陽性菌リポテイコ酸(LTA)のIL-8産生誘導能に関して、ヒト結腸癌由来細胞であるCaco-2細胞は、TLR4アゴニストのリポ多糖(LPS)、TLR2/TLR1アゴニストのPam3CSKや3種の乳酸菌LTAにはほとんど応答しないのに対して、黄色ブドウ菌LTAとTLR2/TLR6アゴニストでのみIL-8産生が認められるという特異なサイトカイン応答を示した。検討した3種の乳酸菌LTAと黄色ブドウ球菌LTAの親水性領域はD-アラニン置換のあるグリセロールリン酸ポリマーで共通している。一方、アンカー糖脂質の脂質成分として、黄色ブドウ球菌ではC18:0と分岐脂肪酸であるanteiso-C17:0、anteiso-C15:0から構成され、乳酸菌では不飽和脂肪酸C18:1(n-9)とC16:0、さらにガセリ菌以外ではシクロプロパン環を有するC19:cyが含まれていた。脂質の組成の違いがLTAのCaco-2細胞によるLTAの認識に違いを与えていることが示唆された。 低活性TLRアゴニストの情報伝達とマクロライド系抗菌薬が持つ免疫調節活性の情報伝達系の関連性に関して、クラリスロマイシン結合タンパク質として同定していたNIP-SNAP-1, 2のCrispr-Cas9によるノックアウト(KO)細胞株とsiRNAによるノックダウン(KD)細胞株を作製した。グラム陰性菌リポ多糖(LPS)刺激によるIL-8, IL-6産生誘導は、KDで著明に低下したが、KOでは変化が認められなく、挙動に違いが認められた。NIP-SNAP-1, 2のサイトカイン誘導との関連は示唆されたが、KOにおける挙動では何らかのサルベージ経路が働いているとの仮説を立て、RNseq解析を行い、それに関わる因子の同定に着手した
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
複数種の乳酸菌のLTAと黄色ブドウ球菌LTAの間に差が認められた。さらに典型的なTLRアゴニストであるLPSやPam3CSKに不応答で、Pam2CSKにのみ応答する細胞としてCaco-2細胞を発見し、本細胞系において乳酸菌LTAの不応答と黄色ブドウ球菌LTAでの炎症性サイトカイン誘導が認められ、両者の化学構造の差異として脂質組成の違いを見出せたことから、両者のLTAの認識機構、細胞内伝達系の差の原因に到達できる良い実験系を見い出すことができたので、これを利用して研究を進める。 我々が見出したクラリスロマイシン結合タンパク質であるNIP-SNAP-1,2の炎症反応応答修飾作用への関与に関する検討では、KO細胞とKD細胞でサイトカイン産生誘導の挙動に差が認められた。これは、当初の予想とは異なる結果であったが、RNAseqによる網羅的な解析を行い、KO細胞とKD細胞の差を見出すことで、さらに詳細な情報伝達系の解明に応用できると考えて、更なる解析を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
低活性TLRアゴニストの解析として、ピロリ菌リポ多糖(LPS)は、大腸菌や緑膿菌のLPSなどを比較対照として、ガセリ菌リポテイコ酸(LTA)については、他の乳酸菌(Lactiplantibacillus plantarumやLactococcus属など)、黄色ブドウ球菌、腸球菌のLTAを比較対照として、細胞を刺激したときの免疫応答について検討する。用いる細胞株は使用実績のあるTLR4高発現のT24(尿路上皮細胞株)、TLR4低発現株MKN28(胃がん細胞株)や、各種TLRを発現させたHEK293細胞株を用いる。さらに、Pam2CSKと黄色ブドウ球菌LTAには反応するが、大腸菌LPSやPam3CSKでは反応性が著しく低いという特異なレスポンスをCaco-2細胞(ヒト結腸癌由来細胞株)で認めており、乳酸菌LTA特異的な免疫応答を探索するツールとして活用する。IL-8やインターフェロン-λ等のサイトカイン産生の検討に加えて、MAPキナーゼ系、NF-κB系、IRF-3系などの細胞内情報伝達系を各因子のリン酸化、レポーター遺伝子アッセイにより検討する。 これらの実験系に対して、クラリスロマイシンを添加して、各種サイトカイン産生誘導や細胞内情報伝達系への影響を検討する。さらに、すでに同定しているクラリスロマイシン結合タンパク質(NIP-SNAP-1, 2やVery long-chain acyl-CoA dehydrogenase)の発現、細胞内局在、細胞内で相互作用するタンパク質の変化について検討する。すでに作製済のNIP-SNAP-1, 2のKO細胞、KD細胞のRNseq解析の結果を詳細に解析し、細胞内情報伝達系の変化について検討する。
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